何もしなかったら完全に勝利した令嬢
「我が息子王太子ピエールの婚約者を決めようと思う、我こそはと思うものは立候補するが良い!推薦も許可する!」
陛下の突然の宣言が貴族の前にされて、令嬢たちは色めき立った……
王太子ピエール様はカッコよく、何より王妃になれるチャンスだからだ……
しかし私フラソルには関係無いと思っていた。
何故なら別にオシャレにこだわりがないから地味であり、身分だって伯爵家に過ぎない。
公爵家やせめて侯爵家を差し置いてとても選ばれるようなものでは無い。
……まぁ正直言えば、ピエール様カッコいイなぁと思うことは思うのだが、典型的な憧れってやつだろう。
だってお話ししたことも無いし……
と言う事で無縁だと思っていたら、友人のサリーが言い出した。
「私一人じゃ応募恥ずかしいから一緒に立候補しようよ!」
「……あのさぁサリー……私じゃとても無理だし嫌だよって言いたいし、後王太子様の妻になれるのは一人だけなんだから、私じゃ相手にならないのは知ってるけど原理的にライバルを増やしてどうするの……」
私はサリーが言ってることが理解できなかったので思わず言ってしまった!
「いいのよ!どうせ地味なフラソルは選ばれないから!一緒に来てくれるだけでいいの!」
……堂々と失礼なことを言ってやがる……
私は前からちょっとなんだかなって思うことが多かったサリーについて、いよいよもって関わりたくないなと少し思ったのであった……
だから断ろうとしたらサリーが言う「いいよ来ないってのなら推薦するから!推薦されたのに婚約選びの場に姿を現さないとか、王家への不敬になるよね?」
……冗談じゃない!推薦なんて恥ずかしいことされてたまるか!
と言う事で仕方なく付き合うことにした。
もうこれっきりだなこいつとは……私は正直そう思ったのであった……
さて婚約者を選ぶ会場には多くの令嬢が集まっていた……
みんな無謀過ぎない?相手は王太子様な時点で身分、教養、オシャレなど全部問われるのよ?
どう考えても選ばれるの公爵令嬢の誰かでしょ。
場違いにもほどがあるって思わないのかしら……
そこにピエール様が現れた……
やはりカッコいいなぁと思うのである。
ピエール様を見れただけで良しとするほどミーハーでは無いので、無駄だなぁとは思っているが……
ピエール様が仰る「今日はこんなにも集まってもらえて嬉しく思う。本来ならば1人ずつ会って確かめるのが筋だと思うが、残念ながら人数が多すぎる!だから申し訳ないが、私が最初に問題を出すからそれにみんなで答えて欲しい!」
このように宣言され、ピエール様から問題が出されることになった。
「問題だ、私のために死ねるというものは、向こう側の部屋にすぐに行くこと、無理なものはここにとどまれ!開始!」
いきなりとんでもない発言を宣言されて令嬢の大半はマゴマゴした。
ごく一部の令嬢だけあっという間に向こうの部屋に行き、大半の令嬢が戸惑った後に追随するように向こうの部屋に行ったので、残ったのは私だけになった……
いや、王家に忠誠を誓う貴族ですけど、流石にいくら何でもピエール様のために死ぬのは……
生きて忠誠を誓うのならばいいんですけどね……
と言う事で私だけ動かなかったが、誰もいないのはええ……って思った。
本当に私みたいなことを思っていなくて、ピエール様のために死ねる令嬢ばかりとはとても思えないのですが……
そして1人だけ残った私にピエール様は興味を持ったのか尋ねられた……
「……君だけここにとどまったが、最初から決めていたのことなのか?」
「……恐れながら、私は生きて王家に忠誠を誓いたいです。死ぬの怖いですから……」
「なるほど参考になったよありがとう……」
そしてピエール様が再びみんなを呼んで言う。
「すぐに向こうの部屋に行ったものと、ここに残ったこの令嬢だけ、候補とする。それ以外の迷ったものは全員失格だ!」
「ええええええ」多くの令嬢から悲鳴が上がるも、ピエール様は仰る。
「王妃たるもの中途半端なものなどいらん、最初からこの試験は、すぐに行動できるか、いっそ堂々と留まるものだけ候補にする気だったのだ!」
……なるほど、色々考えてらっしゃるのだなと思った……
そしてサリーは落ちていて残った候補は5人であった。
私以外の4人は当然あっという間に向こう側に行った人達で
きっと心底王妃になりたいのか、ピエール様と結婚をしたいのか、それともピエール様のお考えを読み切った賢者なのかは知らないが、只者じゃない方たちなのだろう。
まぁ私が選ばれることはだから無いと思うけど、ピエール様のお考えの独特さが素敵と思ったので、私も時間の無駄とは思わずに付き合うことにした。
次はどんなことをお考えになるのかなと、こっちは負ける気でいるから気楽なものなのである。
ピエール様は私達5人に言う。
「人数が減ったから1人ずつと話をしたいと思う。とは言え、いきなり2人で話すというのも、君達が緊張するだろうし、私もするので……ここは笑う所なんだが……」
ピエール様は私達を和ませようとしたのかもしれないが、全員緊張していたので誰も笑わずに、間の悪い雰囲気となっていて、気の毒だった……
「う……うむ、とにかく5人全員で集団面接をしたいと思う!」
どっちかっていうと、他の令嬢がいる前で色々言う方が緊張するんだけどなぁ……と正直私は思うのであった。他の令嬢がどう思っているかは分からないが……
そして他の令嬢のうち3人は公爵令嬢、1人は侯爵令嬢であり、やはり場違いだな私と思うのであった。
多分公爵令嬢の3人は、ピエール様の性格を少しはご存じでしょうから、ああいう時マゴマゴするのが駄目って知ってたのだろうなぁ……って予想できた。
だって公爵令嬢ともあろうものが、いくら相手が王族とは言え、即断即決で死ねますなんて普通は無理でしょって思うからである……
それともそれくらいピエール様が大好きな方とかもいるのかもしれないが……
そしてピエール様がまた質問をされる。
「では本日何故私との婚約に立候補してくれたのか、その理由を教えて欲しい!」
個人的に王族らしいとても強い態度を取る方なのに、こうやって穏やかに聞いて下さる所は、いいなと思う。やはりカッコいいだけの方では無いのだ……
公爵令嬢のうちの2人はまるで愛を競うかのように、いかにピエール様を愛しているか熱弁していた……
まぁ公爵令嬢ともなると、ピエール様を見る機会、何なら関わる機会もあるでしょうから、色々言えることが多いのでしょうね……
しかし1人の公爵令嬢は違った。
「私こそ王妃に相応しいと思うからですわ」
何て率直な凄い事を言うのだろう……私はある意味圧倒された。
ピエール様がどう思いになるのかは分からないが、この人が勝つんじゃない?と他人事ながら思うのであった……
そして侯爵令嬢だが、3人の公爵令嬢に圧倒されたのか、少しマゴマゴをして
「私は頑張りますから、どうか選んでください」などと慎ましく言っているのであった。
そして私はというと、正直に言う……
「本来私が選ばれるわけ無いと分かっているので、最初から関係無いと思っていたのですが、友人に何故か一緒に参加してくれと言われたので来ました。その友人は落ちてしまったのですけどね。こうして残されてしまいましたが、王太子様の深いお考えとかに触れて勉強になったので、来てよかったと思っています」
正直な感想である。どうせ落ちるから言いたい放題である。
ピエール様は言う。
「では私は候補を2人に絞ろうと思う!」
みんな驚いた顔をした、私ももう絞るのかとびっくりである……やはり決断早いなぁ……
王家のものはそういうところが違うのだろうか……
そして選ばれたのは、自分こそ王妃に相応しいと言った公爵令嬢と、何と私であった……
「……あの恐れながら、私が何故ですか?」
流石に驚きのあまり聞いてしまった……
「良かろう、では何故3人が失格になったのか理由を述べようと思う、せっかく来てくれた以上礼儀として伝えるべきだろうから……」
「理由だが、まず2人の私に愛を語ってくれた令嬢だが、大変嬉しいが、王妃とはそう言うものでは無い。よって愛のある結婚をしたいのであれば、他を当たって欲しい。次に私を選んで欲しいとのことだが、王妃たるもの頑張るだけではダメなのだ。よって申し訳ないが3人には帰ってもらう!」
3人は涙目になりながら去って行った……
よく分からないが、私は駄目な対象にならなかったらしい……
「2人を残した理由は、あの3人と違って、完全に自分の事だけを言っていないからだ。王妃に相応しいのが本当かどうかは知らないが、本当だとしたら婚約相手に相応しいのはもっともだし、それから私の考えをちゃんと学ぼうという姿勢も好ましいからだ!」
……何故か評価されたけど、それでいいのかと私は正直思うのであった……
まぁ王太子様の深い考えは私には分からないのかもしれない……
そしてピエール様がとんでもないことを言い出す。
「……正直言えば、私は2人のどっちであっても結婚することは問題無いと思う、だが最後の最後に当然1人を選ばないといけない。そして最後の面接相手は私ではなく父である陛下だ、陛下の前で、私の妻になるものがどちらなのか決めようと思う!」
……とんでもないことになってしまった……
陛下と一度もお会いしたこと無いし、とても怖いのですが……
私が正直怯えていると、隣の公爵令嬢は自信満々な顔をしている……
ああ……きっと陛下にお会いしたことがあるし、ビビっている私を見ればそりゃそうなりますよね……
陛下の前にピエール様と私達2人で向かうと、とても威厳がありそうな方がいた。
もちろん陛下である。
私は物凄い緊張をしていたが、この2人やはり親子なのだろうか、明らかに滑ることを言い出したのである……
「……うむよくぞ我が息子の婚約者に立候補してくれた2人の素敵な淑女よ、ワシは息子が羨ましいぞ!」
……しかし私は緊張していたので笑えなかった、隣の公爵令嬢ですら、笑わなかった……
「父上……」ピエール様に注意されて、間が悪そうに「オッホン、とは言え王妃は1人だけである、よってワシの質問に答えて欲しい……」
「では王妃になったら何ができるか、または何をしたいのか、それらを全力で答えて欲しい!」
……こういう質問が一番難しいというか、絶対に試されるような質問ですよね……
流石陛下と言うか何というか……
すると公爵令嬢が言う。
「私から発言してよろしくて?」
「もう1人が構わないのなら良いぞ」
私に聞かれるので、私もどうぞと譲ると、堂々と語り出した……
「私が王妃になった暁にはまずは教育を重視したいですわ。今の貴族学校は問題だらけ!もっともっと王家に忠誠を誓うような教育内容に変えるべきです!さらに不出来な貴族は退学させるなどして、もっと厳しくすべきですわ。私はあのようなもの達と同じ場で学ぶことにうんざりしていますから!」
「それから、淑女達がおよそ淑女として失格!王家への忠誠が浅いだけでなく、今日だってすぐに死ねると即答できない令嬢ばかりでしたからね。でもそれ以外にも教養も無く、頭も悪い、こんな女ばかりだから、問題が多いんです、私が手本となって、容赦なく改革して見せますわ。女の事は女である私にお任せ下さい!」
……なんかとんでもないことを言い出したが、凄いなこの人と思った。何が凄いかというと、ここまで堂々と自分の事を言い切るのかってことに……
「……なるほど!あい分かった参考になった!ではもう1人も答えて欲しい」
げ……こんな人の後に答えるとか何言えばいいんだか。
正直に言うだけ言って、公爵令嬢が選ばれるでいいや、私は開き直るのであった。
いや正直言うとさ、2人まで残ったから一ミリくらいは期待しちゃってたのよ、私が王妃になったら、いや王妃になりたいというよりは、ピエール様と結婚?それ素敵かもーとかね、うん夢は夢だったよ……
「私は何もできないです、だってこの場にいること自体奇跡ですから」
自分で言ってて酷いなと思うけど、正直私に何ができるのかというと、何もできない。
さらに私は言う。
「そして今この事を言いながら思ったのですが、私も仮にも貴族として王家に忠誠を誓う身ですので、何もできないくせに、できると見栄を張って、万が一選ばれたら王家への不敬、それは避けるべきだと思うので、私は何もできないことを正直に言うことが正しいと思いました」
ちょっとこじつけ感が無いわけではないけど、私が王妃になって迷惑をかけたらまずいのは嘘偽りは無い……
あーなんで私ここまで残ったんだろ、何か自分で言ってて悲しい気持ちになったのであった……
「なるほどあい分かった!」
こんなことを言った私に陛下は優しかった。
ピエール様もそうだけど、お二人は何ていうか、貴族と視野の広さが違うから流石そういう所は王家なんだなと思うのであった……
「ではピエールよ、どっちがいいかお前の意見はあるか?」
「もちろんです父上」「父上こそあるのでは?」
「当然じゃ、では紙に書くから一致したら決まり、一致しなかったら、改めて話し合うことにするそれで良いな?」
ということで陛下とピエール様が紙に書きだして見せあうことになった……
まぁ私は書かれないだろうから、気楽なものである……
しかし……
お二人が紙を開いたら……私の名が2人とも!?
どういうこと!?
私が口を開いて唖然としていたら、もう1人の公爵令嬢が流石に怒ったような呆れたような顔をして、怒りをこらえながら質問をしていた……
「恐れながら、何故私でないので?どうしてこんな何もできない令嬢を選ばれるのです……」
うん、まぁその怒りは分かる、私が逆の立場でも思うかもしれないから……
「うむ、そなたの怒りはもっともだから説明しようと思う、もっともピエールは違う事を思っているかもしれないがな……」
こうして陛下が語り出す……
「そなたの言ったことは部下の提案としてなら大変興味深い、よってそなたの改革内容自体は大変参考になった、だが王妃のやることでは無いのだ……」
「どういうことでしょうか?」
「言った通りだ、その仕事は貴族が王に命じられてする改革であって、王妃では無い。つまりそなたは貴族としては優秀だが、王妃になれるタイプでは無いと言うことだ……」
「……では何故あの令嬢なのです?あのものが何故王妃なのです!」
これは私も思う、どうして私になるのかと……しかし陛下が語る……
「王妃と言うのはなかなか難しいポジションなのだ、貴族ならば単に家柄がいい同士で結婚をすればいいだろうとなるかもしれないが、王妃の場合、王家に入った事で増長するような女では問題があるのだ。もちろんそなたがそうなる何ていう気は無い、だがフラソル嬢ならばその心配がもっと薄いと思ったのだ。王妃とその実家が勢力を伸ばしすぎる、これは王家にとっては問題にしかならないのでな……」
……なるほどというか、外戚が威張ると問題ってやつかぁ……そこまで考えてるのですね。
そしてピエール様も仰る。
「父上の言った通りなだけでなく、私個人としても、正直王家と言うのは外敵だらけ、それでいながら、身内まで気にしないといけないと言うのはなるべく減らしたい。よってフラソル嬢ならば、その懸念が小さいから、私としても助かるってのがある!」
こうして人畜無害枠に近い形で、私が王妃になることが決まってしまった……
何もしない王妃なのにいいのかなぁと……
そしてブチ切れてきたのはサリーだった……
「何でフラソルが王妃なのよ!おかしいじゃない!私のほうが可愛いのに!」
しかしピエール様は冷たかった。
「そんなことを言う奴が可愛いとは思わぬが、仮に可愛いとしても、可愛いだけで王妃は務まらぬのだ……」
こうしてサリーは一蹴されたのであった……
そしてもう1人の公爵令嬢だが、貴族の女改革の案は通ってその仕事に任命された。
それにより、サリーは最初の脱落者の1人になったのであった……
あの令嬢、いかにもサリーみたいな人嫌いそうだったから、成績も悪いし当然ですね……




