Non「己の声」
あまり猪突猛進に進行してハイズの頭の負荷が増すとまずいと言うので時折一行はソラ国領土の先端で英気を養っている。今回は赤い果実の成る木がそばに有る陣地だったのでそれをアーロゥは逡巡しつつも採った。
「なんだお前ッ、食欲ッ有るのか?」
大剣の素振りをしながらアーロゥに訊くハイズ。アーロゥは二三回掌でポンポンと果実をボールの様に扱った後一齧りしてこう答えた。
「そうだね、食欲が有る様な幻なのかな? 睡眠欲も含めてそう言うのが残っているかの様な感覚はあたしには有るよ。テレポーテーションの事も含め、亜の六として現実世界との繋がりが濃いせいなのかな? 実際必要なのかは分からないけどね」
「そうかッじゃあ休むついでだ。瞼をッ閉じる位していてもいいんじゃないか?」
「そうだね、じゃお言葉に甘えて~」
そう言うと、彼女は風を感じているかの様に満足げに瞼を閉じながら食を進めている。
「亜の六少女は忙しいな。寝るのも食べるのも同時にやってしまうのか」
「うーんまあ、時短にはなるんじゃないですかね、旦那。見様見真似でやっているだけでこの世界で食事も睡眠も取った事が無いんでどうやるのが正解なのか分かったもんじゃないですよ」
「なるほど、テレポート試験の延長線上みたいなものか」
「違いないですね」
二人の会話を聴きながらハイズは己の声と向き合っている。狩人狩りとは言え、フロウは本当の所狩人の心根そのものには触れた事が無いと言う。であれば、先達としての側面はそれ程強くないと言う事だ。未来の己こそ最大の師、であればこそ。予測出来る事は予測しておくに越した事は無い。狩り続けて行けば心が黒に染まり兼ねないこの所業。フロウの癒しもどこまで誤魔化しが効く物か、それをこの先闇の眷属三人分耐えるのだ。己を見失わない事、己を律する事。その意味で休むべきこの状況でも緊張感を絶やさない為の素振りを敢行している。
「えい」
ポトリと果実が脇腹に当たって落ちた。アーロゥがハイズの緊張の走る相貌を見て可笑しくなったと見え新しい物をひと捥ぎしてちょっかいを出して来たのだ。
「お前なあ」
「あはは、先生の顔があんまりキツい様に見えたからついね。地面に落ちちゃったけど、それ結構美味しいよ。拭いて食べれば気も紛れるよきっと」
「亜の六少女の言う事にも一理ある。無限永久の青年が抱え込んでいる物は共有のし辛いのは理解が出来るしそれを神妙に見つめ直すのもいいが、まずはリラックスしよう。その為の休憩時間だ」
「…ありがとうございます」
そして果実を拾い上げ服の袖で拭いた後食べてみる。




