No.8「彼女の永遠」
満月の刻、アーロゥは自身の暗黒と完全に同化出来た。受け入れ、打ち克ち、飽くまで光の在り方で自身の人生を切り開くその覚悟が出来たと言う事だ。それは3:4:3における善き昏睡者達或いは中間層のアーロゥへの応援の癒しの波動が功を奏した部分も大きかった。結局悪しき側たる狩人達はハイズに因らないフロウ、サイナン、シコクの峰打ち程度をどうにもする事も出来ず敗退したのだった。
今は、アーロゥが闇を克服した時から数えて何度目かの満月の刻。普段はもはや在り来たりな夢を見るだけの五人だったが、この満月の刻ばかりは往時の幻想戦士としての姿で刻みの地に呼び出される。今はハイズとアーロゥが静かに寄り添い合い、手を繋いでいる。
「現実世界での昏睡者も徐々に減り出しているらしい。後はお前の体が同じ様に良くなってくれれば願ったり叶ったりだ」
「ふふ、先生優しいね」
「ま、まあ二度もあの戦時下で膝枕させられれば情も湧くって言うか」
「あー意地悪なセリフは禁止だよ」
そう昔の決まり文句を言って二人で笑い合う。
「フロウ達はまた隣の呪いの戦部屋で決闘ごっこしているのか」
呪いの戦部屋とはこの刻みの地と言う庭園にフロウが併設した門の向こうの異空間で、フロウとサイナン、シコクはそこで満月の刻に出会う度にかつての決着を付けようとバトルに余念が無い。とは言ってももはやそれはちょっとした過激なスポーツ程度の意味合いしか無く、真剣な命のやり取りを伴う物では最早無い。そして夢世界での肉体もかなり三者とも回復していた。
「誰が誰だか分からない仮面舞踏会でもして居たかの様なあの頃から進歩が無いね、あの三人は」
「そう言ってやるなよ、アレはアレで増長したはぐれ狩人を時折窘める時用のトレーニングになっているみたいなんだし。ただ進歩っちゃあシコクとサイナンの関係も会う度に聞いてるんだが中々進展しないらしいな、まあ喧嘩仲間として出会った彼ららしくて微笑ましいが。しかしここにおける記憶喪失の束縛も消失したが、あれはやっぱり闇アーロゥの呪いだったのか。あたしだけを見てって事だったんだろうな。アーロゥの言ってたガキんちょって言葉の意味が今になって染みて来るよ。あれから俺は兄であるフロウと一緒に昏睡からのリハビリをして、元々の医者としての職業に戻りそして人類初の精神への作用目的での脳の開頭手術をお前に施した。そしてお前は寝たきりを脱し今では車椅子に乗れるまでに恢復した。これから望む事は何か有るかアーロゥ」
そう聞かれたアーロゥは立ち上がり、バラの花を触った後そこら辺を歩き回る。
「若くしてこうして人類の節目における暗黒の審判に携わる位に、あたしの鬱は深刻だったんだよね。精神にメスを入れる段階に辿り着いたはいいがまずあたしと言う極大の患者を治せるのか人類、そしてハイズ先生よってな話だったか。それを大剣ばりにばっさり治してしまうんだから気持ちいいよ。それで願いについてだけど、満月の夜にはこうして歩き回れるのにね。人の時の在り方の方が夢なんじゃないか、って思ってしまう自分が居るよ。これはまだ弱さなんだとそう思う、闇にじっと浸されていた心の脆さなんだと。それがいつか笑い話に出来る事。それがあたしの夢かな」
「夢、か」
空を見上げる。いつの間にかアーロゥはいつかの花吹雪の時の様に一枚花弁に息を吹き掛け宙に舞わせていた。その行方を視線で追うハイズ。仮面舞踏会の終演を告げる様に、その花弁は静かに地面に降り立ち、動かなくなった。
「手伝ってね」
「え?」
「笑顔の種に水を撒けるのは、先生だと思うんだ」
「そんなプロポーズみたいなセリフを真顔で言われると眩しくていかんな」
「もう告白はしちゃった様なもんだからね、恋のガキんちょ経由で。怖い物無しッ後は日々邁進有るのみだ!」
「やれやれ、お転婆姫の旅はここから始まるってな感じかぁ。付き添いますよ、何処までも。こんなへっぽこ騎士で良ければね」
「ふふっカンゼン丸満月な返答で結構」
アーロゥはハイズの手を取り、歩き出す。フロウ達の門の向こうで行われている苛烈なスポーツの観戦をする為に。彼女の永遠は、小さな喜びを膨らませていつか新月から満月へと辿り着く事だろう。




