Z「レンズの空の好敵手」
ハイズは膝枕の姿勢をまたアーロゥに対して取ると、サイナン達に警戒の視線を送った。
「何、俺達は忘れ物を取りに来たってだけだ。ほれ」
それに答える様に近付きながらサイナンが言う。言うと同時にハイズの体から黒い靄の様な物が二つ飛び出し、サイナンとシコクそれぞれの体に向かって行きそして溶け込んだ。彼らの体の黒炎は更に色を濃くした。
「おおうこれだこれ、俺がこの夢世界で自分を自分として肯定するのにはこの怨嗟の感覚が無いと」
「業として背負う物としてはとても重いけれど、かつてのヒトヨさんの仲間としては取り戻したい感覚では有ったわね」
「問うが、お前達はどう言う経緯でここに居る?」
フロウが当然の疑問を投げ掛ける。それを拾ったのはまたサイナンだった。
「俺がやられた後この黒炎姿で目が覚めた。そしてもうフロウの呪いの外側に自分が居る事に気が付いた。で自分の構築した門の領域外に出ると同じくこの姿のシコクが傍に居たんだよ。聞けばハイズの兄さんの切り開いたソラ国領土の道筋を追って辿り着いたと言う。それで二人してこれからどうするかってなった時に、まだヒトヨ姐の決戦の刻には至って無いんじゃないかって話になってアンタらの道筋を更に追う事に決めたんだ。何も参加出来ずとも、その見届け人くらいには成れればいいかなと。で丁度アンタらが門に入る所は見たんだよ、それで一緒になってしまうと問題もあるかと思って、また別口の異空間が提供される事を期待して裏に回り俺達は俺達で門の内部の謎と格闘していた。そこであのヒトヨ姐の演説を聞いたんだ、どうも向こうもこちらの存在は察知していた様な事は言っていたがね。
そこで触れていた通り、姐御の立ち回り如何ではハイズの兄さんの中で盛大な怨嗟の花火が爆散する具合の最終確認と言う悪趣味な一手も考えられた訳では有るが…幸いと言うべきかそうは成らなかった」
「私達が私達なりにヒトヨさんに近似する強大な闇の力を操れるまでになって居たら、そのエゴも増大していた可能性もある…結果的に絶妙なバランス加減になって居たんだと思うわ、サイナンと私に対してのヒトヨさんの力の与え方、手綱の引き方は」
「まあ嬢ちゃんが雑過ぎると言ってくれたのはそうかも知れなかったがね実際、どうせならもう少し寝覚めのいい爽快でパワフルな夢が見たかったぜ」
サイナンが豪快に笑う。ハイズは一連の流れを聞きながら、黙って優しくアーロゥの頭を撫でていた。
「こんないたいけな嬢ちゃんが俺達の激闘のど真ん中に居たと思うと世の真理にでも触れた気分になるぜ…」
「本当にね、子猫ちゃんの正体は化け猫だった、って物語で絵本が書けそうな衝撃性だわ」
冗談を交わす黒炎の二人。そうこうして居ると狩人達がこのヒトヨとの決戦エリアに乗り込んで来た。ヒトヨが形の上で事切れた事でフロウの呪いと言う結界もヒトヨの門の隔絶も解除されたのだ。そして来たのは悪魔型ばかりでは無い、遠方から押し寄せたアンデッド型や告死天使型も少なからず居る。
「奴らは奴らが暴れる道理の通る世界を欲していた、だがそれもヒトヨの姐御がアーロゥの嬢ちゃんサイドに付いた今叶わない、とすれば嬢ちゃんの平穏を脅かそうと襲って来るのも自明の理ではあるな。夢命召喚」
「フロウの叔父貴がやった様な幻の肉体を持つとまでの究極のファンタジーは実現出来ないが、それでも私達が魔力を蓄えてたのは今日この日に従者狩人を万全の状態で召喚する為だった様だね。夢幻招来」
「そう言えばフロウ、俺もシコクもアンタに死に様は見られていないらしいじゃないか。て事はまだ本当の勝負は付いてない、お預けだって事だ。この盤面をクリアしたら覚悟しといてくれよ?」
「ふっ、怖い事を言う。昨日の敵は今日の味方、そして明日も味方であって欲しいと願うのは無理なのかな?」
「好敵手って言葉があるでしょ? 忘れないで、私達が貴方との戦いの中にあった事は。私達も決して忘れる事はない」
「約束しよう、ラカンソラの戦いの終始についてはこの身に刻むと。そしてこれから我々が戦うのはレンズの空でのそれだ」
手が離せないハイズを除いて、三人はそれぞれの方法で狩人に相対して行った。そしてその防衛戦は次の二日後の満月まで続いた。




