No.6「亜の六少女じゃ居られない」
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ハイズが戦いながら継ぎ接ぎで喋った内容はこうだ。
「いや、あのヒトヨの演説内容はあの雨の異空間でも筒抜けだったんだけど、聞いてるアーロゥが面白く無さそうな顔してるなって思ったのよ、同調を示してた割にはって。でアーロゥ愛しの、の下りで目見開いて顔真っ赤にしてこっちを見るもんだから慰め半分で『え俺の事好きってマジ? いやーモテる男は辛いなー』てな事を嘯いてたら、多分何言っても難しい局面だったとは思うんだけどアイツ普通に弓構え出してめっちゃ襲い掛かろうとして来てたのよ。あれはヒトヨの分身として説得力有りましたわー…」
フロウはハイズが時折見せて来た敬語、フランクさの中での隠し切れない敬意が気に入っていた。先の推論で私の頂きに有る火はアーロゥでは無いとなった。気の置けない相手でかつ敬意を払う存在、それは目上の家族と等しい。とすればその火の正体とはもしや…。
「なるほど、それは盲点だったな、少女が来たらどうなるものか見てみたいものだ」
「同感同感、それまでは騙し騙しヒトヨの攻勢に付き合うつもりで居るよ。こちらの腹積もりとしてもあの口車に乗せられてヒトヨ斬りを敢行してサイナンやシコクが俺の中に置き土産として置いて行ったらしい怨嗟爆弾の誘爆に巻き込まれるのは御免被りたいからな。何か別の解を導き出せるかも知れない、あの覚悟を湛えた目を光らせていたアーロゥがここに辿り着いたなら」
「何をごちゃごちゃ話している貴様ら! 勝負に集中しろ!」
ヒトヨはどうも自己に対し直線的ではない二人ののらりくらりとした戦い方に調子を崩され啖呵を切った。二人の間に放たれるボウガン。二人は散り散りになるがそれでも距離を取ったまま会話を辞めようとしない。
「いいだろう、あたしはあの二人と違って従者の強化狩人を幾らでも再生する事が出来る。また六枚羽根を新規状態に戻せばその減らず口もどうにか…」
「旦那、イケメンだね」
今までこの場に無かった四種類目の声。それはヒトヨの物に近しかったが心根の持ち様が違う誰かの声である事は明確であり、そしてそれは誰あろうアーロゥの声であった。
「あーあ、終わりだなヒトヨ。お冠アーロゥの登場だ…ヒェッ」
雨の異界で相対して弓を構えた瞬間から今まで口を聞いて居ないハイズの小声を漏らさず聞き取ったアーロゥはキッと彼を睨み付ける。そして、
「ヒトヨォオオオ!!」
アーロゥは一目散にヒトヨの方に駆け出す。道中三発弓矢をディモンの残る目玉に放つが全てクリーンヒットし、ディモンはその場に膝を付いてしまう。
「来たか小娘…だがな!」
ボウガンをアーロゥに向け何度も打つ。だがアーロゥは今まで見た事も無いテレポーテーションの使いこなし方で全弾回避を成し遂げてしまう。更に距離の縮まる二者。
「なっ!?」
「何が小娘だッアンタだッ一番ガキんちょなのはあ!」
とっくに懐に入り込んでいるアーロゥの弓での直接攻撃でボウガンを落とされると、ヒトヨはそのまま拾い上げる隙を与えられる事も無くアーロゥに馬乗り姿勢を取られてしまった。
「ぐぅっ!」
「あのね、表に出さないけど先生はもう狩人狩りだけで十分傷付いている…一人で居る時にこっそり見ると凄い苦しそうな顔をしている事が何度も有った。それを差し置いてアンタ達分の怨嗟を抱え込ませようって言うの? 冗談じゃないよヒトヨ、完の六? 認めないよ、アンタなんか無の六で十分だ」
一回ヒトヨの左頬をビンタをした後は顔に手を出さず頭をボカスカ殴りながらアーロゥは続ける。
「お友達の扱いも雑過ぎ、せっかく共鳴してくれた相手を踏み台にしか思ってないんじゃないのアンタ」
「違ッあたしは…」
「黙れ無の六、乙女心の持ち主だなんて言っちゃったけど人の気持ちをべらべら喋ってくれちゃってさあ。一度シコクさん戦の後眠って居た時のあの闇に浸されている感じ、あれはとてもうすら寒い体験だったけど、でもあたしがあたしで在る為に必要な闇なんだとそう感じた。アンタがあたしを遠ざけつつもあたしの輪郭を理解する側に立って居るって言うなら、今度はあたしがそっち側に回るよ、先生にこれ以上頼るのは辞めにして、内輪の事は内輪で片付けよう。おいで、闇のあたし、そしてヒトヨ。もう一度旦那と戦ってた頃の一つの自分に還るんだ、ただし、その時の心が闇に飲まれた心であったとしたら私はそれを認めない。跳ね除けて見せる、どんな苦しみがそこに待っていても。永遠は無いと言うのなら、永遠の苦しみだってきっと無いんだ」
アーロゥは頭を叩くのを辞めて、ヒトヨの右手を無理やりに取り、両手で自分の胸に持って来た。そこにどう言う訳かシコクとサイナンの魂、フロウのそれに近しい炎形状の黒炎が二つ現れた。
「やれやれ、坊や呼ばわりしてくれてたヒトヨ姐の本当の姿がこれとはね。見た目にすっかり騙されてたぜ」
「ホントだよ、私達の事を良くしてくれた親くらいに思ってたのに、これじゃ子猫と子猫のじゃれ合いじゃないか」
二人の登場を予期していたかの様な口調でヒトヨは彼らに答える。
「どちらかと言うとアンタ達二人に向けての演説だったんだけど、アーロゥ・ハイズサイドの方に伝えるのは慎むべきだったか。あたしの様に汚れた人間には恋の理解はまだ早かったね…」
突然のサイナンとシコクの登場に唖然としつつもアーロゥは両手に力を籠める事を辞めては居なかった。それを是としたヒトヨが力強い眼差しでこう告げる。半身だが、ヒトヨは起き上がりアーロゥの頬に空いている方の左手を添えた。
「光の側に立つアンタが正しい事は一杯有るよ、亜の六のあたし。でもね、あたしが無だなんて、なんでもないだなんて事はまず無い、あたし達の大元である現世のあたしにとっての99%はあたしの抱える闇で構成されて居た様な物だ。それを自分だけで抱え込める筈だなんて考えも捨てた方がいい。頼るんだ良くしてくれた人々を、助けて貰うんだ、アンタが好きだってあの人に。いいだろう、託すよ全てを、アンタの放つ光を羅針盤の北に据えて見る夢も悪くはない、どうせ醒めない悪夢なので有れば」
ヒトヨは更におでこをアーロゥのおでこにくっ付けた。別れの、そして二人が一つになるその最後のサインだ。
「さあ、この時だ、と思える瞬間が来たらおでこを離してご覧。そしたらもうあたしはおでこだけじゃなく今熱く握られている右手から何から立ち消えになってアンタの舵取りで人生を切り開くフェイズに切り替わるよ。勿論、闇を携えて前に進む勇気をアンタに持つ事が出来ればだけどね。ハイズ先生が示して来た怨嗟との付き合い方。それをお手本にアンタがあたしと言う怨嗟爆弾を受け止め切れるか、見せておくれよ。こうなりたかったじゃなく、こうなりたいって大人に今から二人でなろう」
アーロゥは無言でうん、と頷くと、ゆっくりとおでこを離す。離した筈のおでこと右手が握られていた両手から闇の霧と化したヒトヨが吸われて行く。叫びたくなる程の絶望に飲まれるが、それでもアーロゥはハイズの方を見つめている。
「せ、先生」
「な、なんだ。俺に出来る事が有れば言ってくれ」
「眠ってる間、また膝枕…お願い」
それだけ言うとアーロゥは意識を失った。




