No.3「亜の六」
アーロゥの得意技は透明化であった。狩人狩りに於いては夢での空想を具現化する力で表出している弓を使うがそれでも狩人に接近され命の危険に身を晒す時がやはり有る。そんな時は意識を現世寄りにコントロールしこちらの世界での透明化を実現させ絶対回避能力を獲得する。だが、それも万能ではないらしい。
「れれ?」
彼女は今シコクの居城を目指すその旅程で野良の狩人と交戦しつつ自身が可能だと確信していた回避能力を初めて発動させた。がしかし透明化すると夢世界の自分の元々の座標(つまり回避開始場所)が現実世界の自分の座標に引っ張られ自分が果たして何処に居るのか分かり難くなると言う弊害が有るようだ。
「おい大丈夫か?」
心配し堪らず声を掛けるハイズ。回避の必要性を産んだ狩人が獲物の唐突な透明化を目の前に右往左往しているのをその大剣による一刀の下に彼は両断し、アーロゥの座標が固定化されるその時を今か今かと待っている。そしてその時は来た。元居た場所から10m程勝手なテレポーテーションが成されていた。
「ごめんごめん、こんな欠点が有るとは思わなかったんだ」
「まあ月の民の願いの力は有限だって事で出し惜しみしてたお前の判断は或る意味正解だったと思うが、実戦で突然投入するには危険な代物では有った様だな」
月の民とは、満月の時に一斉に人の夢に介入しようと言う現実世界と他人の夢とを行き来出来る限られた選ばれし人々の事だ。彼らは人の夢をああしたいこうしたいと言う願いの一部をエネルギーとして夢世界ラカンソラに残す。そしてそれはソラ国の薄い虹色掛かった領土において使う分にはハイズやアーロゥにも特に目立った負荷は無い。だが敵国の、カラ国の灰色の領土で無理に使おうとするとそれは倒す狩人の断末魔と言うか、悪影響が身に降り掛かって来る。基本的に敵はカラ国に居る訳で、ではどうすればいいかと言うと、ソラ国領土に近い所で願いの力を消費すれば負荷が軽減されるという効果が有る。敵を倒すと領土は手に入る。手に入れ、倒し、また手に入れ倒していく、この流れを繰り返しながら二人は今この地に降り立ってからの三日目を迎えていた。この辺の事は今二人にふわふわと浮きながら帯同しているフロウ精神体が「刻みの地」で第一にと教えてくれた事だ。
フロウは精神体になる前、肉体を失う程激しい願いの力の行使でヒトヨ、サイナン、シコクの三者を「刻みの呪い」と共に思い切り弾き飛ばした。彼らの足元を溶けざる蝋で固定するかの様に力強い呪い、それには自分を追い詰めた彼らの共闘を防ぐ狙いが有った。




