No.2「完全昏睡者」
狩人の夜を統べる者も居た。完全昏睡者。夢渡りにリソースを全振りの不運な眠り姫、眠り王子達。彼らは今裏世界とも言える夢の時空に五人居た。科学の夜明けとしての精神病を治せる時代への祝意か悪意かは不明なテープカットの儀が成され、まずとある満月の夜、一人目と二人目が降り立つ。一人目は女性で、闇のファーストマザーとしての立場を良しとした彼女はとりあえず狩人達を使役して昏睡の病を振り撒く悪しきスタンスの確立を目指した。同時に降り立った二人目は男性、彼は正義側と言って良く昏睡の強化に余念が無い彼女のやり口を良しとしない狩人狩りのスタンスを反対に取った。
個々人の見る夢はこの二人が居る大元の夢時空に繋がっていた。彼らは空中の満月と言うレンズ形状の女神が行く末を見守る中で頭が夢で連なったその状態を連頭と呼んでいるが、それぞれで同じ場所に対し呼び方が違うと言う事情が有った。空、そして空。カラエリアがファーストマザー「ヒトヨ」の領分、ソラエリアが狩人狩り「フロウ」の領分と言った塩梅だ。最初の三十日間戦争は拮抗していたが次の満月で降臨した二者が二人ともヒトヨサイドに附いた事で状況は一変した。三人目のサイナンが男性、四人目のシコクが女性で彼ら三人は結託して狩人狩り潰しを決行しそしてそれは更に次の満月までにフロウの肉体を潰えさせる事に成功した。今フロウと言う存在は”不滅の蝋”としての怒りの焔を輝かすだけの幽玄なる美を宿した精神体に過ぎなかった。そして先程触れた更に次の満月、今現在に最も近い過去の満月の日、今度はフロウ側に附く一人ともう一人が現れた。二人目の狩人狩りハイズとそのサポーターアーロゥである。
アーロゥは先の五人と比べるとかなり特殊な人物だった。亜の六、欠番の成り損ないの六。彼女は現世に於いて完全昏睡者では無い。だがしかし目覚めている時動き回り自分の人生を謳歌していると言う立場でも無く寝たきりで、その在り方はかなり現世とラカンソラとの境界線上で揺らいでいると言えた。ラカンソラとは、ヒトヨサイド・フロウサイド何方からとも無く言われ始めたカラ国とソラ国とで領域の奪い合いをしているこの夢幻想の世界一帯を差す言葉だ。勿論レンズの空と言っても良いのだがそれでは空に当てはまる呼び方がカラとソラとで一定しないのでこの名が生まれた。レンズの空やレンズの空は、いずれ世界領域が一色に染まりその輝かしさ禍々しさを確立させた時に呼ばれる名前と言う事になろう。




