No.5「運命を分かつ数刻」
月と、影。つまり内容物的には従来の水たまりにおける影縛りの時の絵が完結した事になる。だがこの水たまりは普通の水たまりではない、ゴールである筈の、三人の影をなるべく同時期に縛って貰って現実での出現タイムラグが少しでも少なくなる様に考慮しなくてはならない究極の最後の水たまりだ、少なくともその一つだ。
「まずい! 同時に入る事は元より出来ないんだ、アンテナに届く風の穴が今開いた感じが有った! 青年、出来るだけ月の携えられたどうでもいい水たまりに捕らえられる事だけは避けるんだ。恐らく亜の六少女はこれからシコクに単独で先行して挑まなくてはならない。ここでの一秒が元居た夢時空の何十秒かは分からないが出来るだけ早く察知する、さもなくば少女の命が危ない」
「何! それは一大事だ。分かった、判別次第速攻で走れる様にするよ」
「え、えーいきなりそんな悲劇のヒロインみたいな状況にぃ!? しかもこの水たまり結構蒸発速度早いよぉ」
判別、その為にアンテナをフル回転で動員して察知速度を上げようとする。来た、ここから10mと20mだ。だが遠方を影の少ない自分用にしないと途中でハイズが囚われる可能性が飛躍的に高まるだろう。それに口頭でそんな遠方の水たまりを上手く伝えきれるとも思えない。
「無限永久の青年、10m地点に一個有る、ここから見て左に一個、次右に二個水たまりが見える先の一個だ、そこに到達してくれ、健闘を祈る」
「おおう任せろ、また現地で会おう」
親指を上げるポーズをして後のハイズの回避しつつの疾走を見届けると、フロウはアーロゥに必要最小限伝えるべき事を伝えようとした。
「こうなるとは思っていなかった、頑張ってくれ少女よ。シコクは槍使い、しかも遠隔に用いるもう一本も持って居る。従者として召喚する告死天使もより強大な個体を用意して来るかも知れない、気を付けてくれ。私が知る限りシコクは遠隔槍を投じる時に動きが止まるのでそこに隙が有ると言えるが無理に攻めようとしなくていい、まずは自分の身を守る事だけ考えてくれ」
「分っかりました、と言っても保証は出来ませんけどね旦那。会えて良かった」
「変な捨て台詞を言うもんじゃない。無事を願っている。ではな」
そして自身も到達するべきである所の水たまりへと向かう。月の位置を考慮して、影が入り込まない様出来るだけ低空飛行で。「成功だ」と言うハイズの雄叫びを背に受けフロウは内心ニヤリとしつつ、20m先の目的地へと紆余曲折の末辿り着く。見るともうアーロゥの姿は無い、出口へと導かれたと見ていいだろう。丁度自分が入り込むまでに丸々アーロゥの影を縛った水たまりの蒸発までのタイムラグが完成してしまった。シコクがどれ程この牢獄に魔力を割いたかは分からないが、してやられたと言う他無い顛末になってしまった様だ。はっきり言って共闘を打ち砕いた時点で三人に相対しなくてはならないシコクの勝率はほぼ無いと言っていいので正当手段で来る訳が無かった、主目的は刻みの呪い刻限三十日後までの三人掛かりでの延命だったか。後は自分抜きでも二人が合流出来たら恐らくシコクの敗北はほぼ確定する。勝敗の行方は、アーロゥの保身を見据えた立ち回り如何に委ねられたと言う事だ。




