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アルバは静かに眠りたい

※※※


その日、父であるアレックスが異常な気配を感じ取り精鋭の騎士たちとともに町へ出かけた後、アルバは母のマリアに抱かれて、静かな部屋で赤子らしく眠っていた。そう・・・一見した限りは、ただ眠っているだけの赤子にしか見えなかったというのが正しい。


(小さな妖精たちの騒ぎ声が、遠くで聞こえる・・・。ううん、遠くて近い。【桃源郷】が確か白嶽山脈にあった筈だけど、まさか気づかれた?)


アルバは浅い眠りの中で、どうか今日も平穏な一日でありますようにと強く願った。



※※※


確かに自分は死んだはずだった。だがしかし、気づけば何らかの未知の存在によって再び今世に生まれ変わったようだ?それが神といわれる存在なのかは謎だが・・・。


アルバは神を信じてはいない。なぜなら、どれだけ祈っても自分の願いが叶うことはなかったから。



※※※



人々が夜明けの色だと称える血のように紅い髪も、明らかに他者と異なるオッドアイもアルバは自分の全てが嫌いだった。


おそらくアルバほどに平凡という言葉に恋い焦がれた人間も珍しかろう。


普通に生まれ普通に恋をして好いた相手と結ばれ、叶うことなら子をなして短くとも平凡な人生を送り、最後は孫の顔でも見ながら逝く。それがアルバにとっての至上の幸福と呼べる人生。


すでに人でありながら500年以上を生き続けて、それでも夢に見た平凡。



『凡庸であることは一種の才能である。』



そうアルバは信じている。何故なら自分は非凡な人生しか送れなかったから。



強大な魔力を持って生まれなければ、日々大きく自分の体内で育ち続ける魔力にひかれて、魔物が故郷の村を襲うこともなかったのだ。目の前で親と兄弟たちを次々と失くし、故郷の村が魔物に蹂躙され壊滅していく姿を呆然と目に焼き付けることしかできなかった幼きアルバ。皮肉なことに生まれ持った『ギフト』と呼ばれる精霊たちの祝福の力で一人だけ生き延びたアルバは、生涯独身だった。


背丈は15歳を過ぎたころからだろうか一向に伸びなくなった。青と緑のオッドアイが強大な魔力を持つ者の証であると知ったのは、20歳を過ぎた頃。精霊たちから魔法と『ギフト』の使い方を学び、その過程で村を魔物が襲った原因が自分の存在だと気が付いた。


まるで、それが贖罪であるかのように魔物が跋扈する戦乱の世界で七人の子供を弟子として引き取り、また精霊たちと小さな妖精たちに導かれ卵の状態で数百年眠り続けた仔竜のぼうを育てた。


仮初めでも家族と呼べるものを持ちながら最後まで「普通が一番の幸福」であると弟子たちに事あるごとに語った。


規格外の大きすぎる魔力を持ったゆえの苦悩は、アルバと同じく非凡に生まれついた七人の弟子くらいにしか分からないだろうと思ったから・・・。


普通にも平凡にもなれない自分を嫌というほど知っていたからこそ出てきたアルバの残した言葉でもあった。


それは弟子たちが独り立ちして初めて知った母親であり魔法の師であるアルバの弱い人間らしい一面。


いつの世も子供たちを連れて世界を旅するのは無謀と呼ぶに等しい。それが魔族たちが人間の世界を侵略せんと戦いを仕掛け、また魔物のスタンビートが頻繁に発生する戦乱の時代なら尚更だ。


平穏に暮らせる安住の地を求めて、各地を転々と流離い歩いた末に、ようやく手に入れた誰にでも等しくやってくる最期の時。


世界に束の間の平穏は訪れた。だけど私の寿命は残り少ない。


しかしアルバは思ったのだ。それが真の普通だと。



「あぁ、誰にでも訪れる死という最期だけは、私にも与えられたのね・・・。」



後のことは弟子たちが何とかするでしょう。七人の弟子の顔を思い浮かべ世界を託して息を引き取ったアルバは、ようやく静かに安らかな眠りについた。


500年以上に及ぶ長い長い人生の道のりは、こうして弟子たちやぼうたちに見送られ終わった。よもや、その先があるとは思いもせずに・・・。



※※※



(どうか今世は普通に生きられますように・・・)


アルバは願う。恋い焦がれる「平凡」と「普通」という人生を。


しかして赤子として生まれ、まだひと月足らずの自分が自我を持っていることが普通でないことに、まだアルバ自身が気づいていなかった。


生まれ変わったら、当然のごとく前世の記憶など忘れてしまうものだ。なぜ、転生前の記憶が残ったままの自分がいるのか?


押し寄せる眠気の波に負けたアルバは、遠くに近くに聞こえる小さな妖精たちの声をBGMがわりに、母の腕の中、また眠りについた。



※※※




平凡な人生とは程遠い新たな人生の幕開けを迎えた赤子のアルバのもとに、珍事件という名の異常事態に見舞われた父アレックスが賑やかな客たちを連れて戻ってくるまで、あと僅かであった。







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