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大魔女、転生する

※※※


暁の国の最北に位置する辺境の地ノルドは、白嶽山脈の麓に位置しており極寒の地として名高い。

四季のある暁の国でも特に冬が1年の大半を占めるほど長く、また春から夏が極端に短いことで知られている。


白嶽山脈の中でも斑雪山【はだれ山】と呼ばれる鉱山からは、希少性が高く純度に優れた斑雪魔晶石が多く産出され、春の雪解けを待って冒険者や出稼ぎの鉱夫たちが一攫千金を夢見て働きに来るが、ノルドの一番大きな町セヴェルでも良くも悪くも田舎という言葉が似合う長閑な領地であった為に、彼らが金を落としていく短い春から夏にかけてが多くの領民たちの大きな稼ぎ時でもあった。


ちなみに例外としてだが冬場を中心に実験的にではあるが魔晶石の加工に精を出し、領主公認の工房のみがノルドブランドである魔道具や宝飾品を作成して、王家に献上することにより独自の産業を生み出し始めている。ただし、その数はあまりにも少なく王都などの市場にたくさん出回るまでには至っていない。まだまだノルドブランドは加工・流通が地域産業として確立していないのであった。


そしてひと昔前には、白嶽山脈では度々白銀の竜の目撃情報があったが、すでに竜族ともドラゴンとも呼ばれる存在自体が滅多にお目にかかれる存在ではなくなり伝説上の生き物とさえ言われるようになりつつある。


ドラゴン、精霊、妖精といった種族の発見は、近年では全く見かけなくなった。


さてこれは、そんな時代に起きたノルドの珍事件の始まりであった。



※※※



その日、ノルドを治める領主アレックス・ノルド辺境伯は、夜明け前から異常な気配を感じ取り愛剣を手に取って、セヴェルの町を精鋭の騎士たちとともに馬に騎乗して巡回していた。


魔物の数は人々が魔法を扱うようになり、また結界装置などの魔道具の普及により、辺境の地でも確実に被害は減りつつあるが、そこは自然豊かな……平たく言えば開拓途上のど田舎である。当然ではあるが広大な領地内すべてを張り巡らす結界装置など、魔晶石の産出地であっても設置できるわけもなく、毎年一定の被害者が発生しているのが現状であった。


ノルドでは魔物が発生する時期は、領主自ら騎士団を率いてセヴェルの町をはじめとする近隣の村々や森を巡回して危険に備えるのが通例であった。そしてアレックスには、どうしても自らの命に代えても守りたい存在がいた。


つい最近、およそひと月前になるが、アレックスには隣国の天明の国から迎えた妻マリアとの間に待望の第一子が生まれたばかりなのだった。長女アルバの誕生である。


妻のマリアとは政略結婚だったが、恋情ではなくとも親愛の情を抱くに値する相手と思いお互いを尊重する間柄となっていた。マリアは魔法に精通しており、天明の国にいる七賢人のうちの一人を親に持つサラブレッドでもあった。そしてマリアの希望で自分たちの子供の名を今も伝説に語り継がれる大魔女にちなんで、アルバと名付けた。アレックスもマリアも目に入れても痛くないほど可愛がっているが、その出産の日は驚くことの連続だった。


まだ雪解けとはいかない初春の空に彩雲が現れ、まるで雲に虹がかかっているかのように見えた後、急に領主の館の庭の花々が一斉に咲き始めたのである。野の花を中心に植えられた野趣あふれる庭だが、アルバの誕生を祝うかのように天上も地上も騒ぎ出したかのような幻想的な景色を作り出し、多くのものを驚かせた。セヴェルの町でも彩雲を見たものたちは口々に「幸運の虹だよ」と空を指差したという。


領主の館から後継ぎ誕生の知らせが届くと、人々は皆そろいもそろって「大魔女様の祝福だ!」と夜通しどんちゃん騒ぎが町のいたるところで巻き起こって、騎士団や自警団も出動する騒ぎになった。娯楽に乏しい辺境の地ならではの光景であったのだが、両親であるアレックスやマリアも知らないところで、アルバ誕生は確かに世界に影響を与え始めていた。


そう、彼らはまだ知らない。


大魔女アルバが、再び現世に舞い戻ってきたことに・・・。

彼女の存在がノルドを、暁の国を、そして世界を大きく変えていくことに気づくのは、もう少し・・・そう、もう少し後のことである。




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