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イケメンに口説かれていますが遠慮しておきます、ぼくは佳純が好きなんだ

 私ロッテ。元平民。お母さんも平民。貴族のお父さんとそれはそれは熱い恋をしたの。でもね身分の差はどうしようもなくてね泣く泣く別れたんだって。

 お母さんはお針子やりながら私を育ててくれたんだけど貧乏でね。働き過ぎで体壊しちゃったの。お母さんが亡くなったとき悲しくてお祈りしたら体から白い光があふれだして周りの病気の人たちが治ったんだって。でもお母さんは生き返らなかった。そんな時、お父さんが迎えに来てくれたの。おそいよお父さん。お父さんは私が聖女だから大切しないといけないと言って引取ったの。それでね、貴族が通う学園に入ったのだけどみんな私のことね、バカにするの。そんな時に助けてくれたのは王子様とその側近の皆様。それでもだんだんいじめが酷くなってきてね、この間階段から落とされて……。

 

……

………

…………


「却下ぁぁぁぁ」


 目の前の佳純がそれまで読んでた台本を丸めて僕の頭を叩く。その姿は魔王のよう。何を怒ってるんだ?


「なんで? テンプレでしょ?」

「まず文化祭の出し物でやる劇だよ。階段から落ちてくるのってダメでしょ。それにね、今更オリジナルの劇やってみんな楽しめる?」


 そんな佳純の問いに僕は胸を張って答える。


「テンプレ通りだから大丈夫!」


 佳純は頭を抱えて唸るように言う。


「それでヒロインは誰がやるの?章?」

「ヒロインは佳純でしょ?」

「だーかーらー、私はこの身長よ。ヒロインはだめでしょう、まだ章の方が合ってる」


 ひどい言いようだが確かに幼馴染の天木佳純は175㎝。男性と比べても大柄だ。一方僕は155㎝。僕より背の高い女の子は少なくない。いつも女の子と間違えられるこの顔。いやいやいや僕は男だ。


「イセコイやるなら章……御神楽(みかぐら)がヒロインね、で佳純が王子様」


 文化祭クラス委員の大崎茜もぼくがヒロインと言う。確かに佳純は王子様が似合う。ひそかに女子の間でファンクラブもある。でも、僕にとっては幼い頃からの友人でかわいい女の子だ。


 ただね、ちょっと不思議なところもあるんだよね。僕が困るとどこからともなく現われる。


 あと、僕が女の子と仲良くしているとやっぱり現われる。なんか不思議な力を持っている気がする。まぁ、僕は佳純一筋なので他の女の子と仲良くなるつもりはないからね。


 って、ちょっと待て僕は男だよヒロインができるわけないでしょう。そう思って見回すと僕のことを期待した目で見る女子たちが。勘弁してぇ。


「そうよね、茜ちゃん、章がヒロインよね」


 佳純さんまでそんなこと言わないでくださいぃ。


 結局無難なところで演目は白雪姫になった。王子は佳純、白雪姫はまだ決まってないけど放課後に女の子たちでくじ引き、魔女なお妃様は大崎、僕は七人の小人。まぁ白雪姫にならなかったからいいか。


 僕らが通っている大田三田(おおたさんだ)高校は西東三田(さいとうさんだ)大学の付属高校だ。文武両道でスポーツも盛んで佳純は二年生ながらバドミントン部のエース。僕は……文芸部だけどほとんど書いてなくて毎日スマホでラノベを読んでる。それで台本を頼まれたのだけど、まぁ、却下されたけど。くやしくなんかないよ……嘘ですちょっと、いや、だいぶくやしい。


 文化祭は各クラスやクラブの出し物がある。僕らのクラスは王子様な佳純を前面に押し出して執事喫茶をやろうとした。だけど、一年生だった去年は一年女子だけでなく二年、三年のお姉さまが殺到。その混乱を重く見た先生と生徒会からのお達しで喫茶系は許可が出ないことになった。それならクラスじゃなくて体育館に時間を限って劇をやろうということでおさまった。


◆◆◆


 お芝居はまぁそこそこだった。ほとんどの観客が佳純目当ての女子だったので佳純が出てればOKだったのだろう。


 肝心の王子と白雪姫とのキスシーンでは白雪姫役は人形だった。くじ引きで勝った女子はめちゃくちゃやる気をしていていたけれど大崎がポツリとこぼした言葉で顔色が悪くなった。


「佳純とキスなんかしたら翌日からどんな目に合うかわからないよね」


 怖いけど役を降りたくない。ということで佳純のキスの相手は人形に落ち着いたのだ。僕も、相手が女子とはいえ、佳純に他人とキスをしてほしくなかったのでほっとした。それを見た大崎にからかわれたのは言うまでもない。肝心の佳純は気がついていなかった。


 ぼくはほっとするようなちょっと残念なような複雑な気分だった。


◆◆◆


 無事に終わったお芝居だけど観客は見事の女性ばかり。我が校の生徒だけでなく他校の女子生徒やお母さまや……先生まで。男性は実行委員だけだったかも。


 バドミントン部員は実行委員の仕事も引き受けているので佳純ほとんど暇がない。なので佳純が時間がとれたのは出番が終わって片付けが終わってから。


 夕方にはまた実行委員の仕事があるのでそのわずかな時間が佳純と見て回るチャンス。なんだかんだ言って二人きりにしてくれるクラスメイト。愛してるよ。


 佳純と隣り合って歩くと佳純の方からなんかいい匂いがして来る。いつもは男の子みたいな佳純も女の子だと実感する。いつか頼れるカッコイイ男になって佳純とデートをしたい。誕生日は僕の方が早いのにいつも佳純がお姉さんになって僕のお世話をしてくれる。これじゃだめだ。


 校内を廻り中庭の屋台を見た後、校庭の方に行ってみた。ついさっきまでサッカー部の対抗戦をやっていたらしい。部員達が後片づけをしていた。同じ西東三田(さいとうさんだ)大学の付属高校の美田三田(みたさんだ)高校のサッカー部が来ている。毎年交互に訪問して対抗戦をするのだけど今年はうちの高校のホームゲームだったようだ。


 美田三田高校の選手たちはうちの女子達に囲まれている。その中でもひときわ背の高い選手のまわりに女子が群がっている。ちっ、いいなぁ。僕もあのくらい背が高ければ佳純をエスコートできるのに。


 そう思って見ていると彼も僕達の方をみて驚いた表情をする。そいてなぜかこちらに向かってくる。


え?え?え?


 僕たちの前に来ると僕を睨みつけそして佳純を見て、にやりと笑う。


「なぁ、ちょっと話をしたいんだが」


 名前も言わず名前も聞かず、彼は佳純を誘う。どこに行くんだ。そう思ってると、佳純は文化祭実行委員が使ってるエリアにやつを連れて行く。ぞろぞろとついて行く女子たちは実行委員に阻止されてブーブー言っている。その隙間を縫って僕は二人を追いかけた。うしろからはうるさい声が聞こえるがそれは無視だ。


 追いついた僕が少し離れたところから二人を見ると奴が両肩を掴んで佳純を校舎の壁に押し付けていた。


「おまえ、こんなところにいたのか」


「あぁ、久しぶりだな、こちらにきてからだから……16,いや17年ぶりか」

 佳純は落ち着いて答える。


「あいつが……」


「そうだ、貴様の思ってる通りだ」


 男と佳純の会話はなぜか知り合いのように聞こえる。男が続ける。


「なんであんな姿に。お前の姿も……まさかお前が……」


「いや、それは違う。こっちに送った女神が面白がってやったんじゃないか。あの駄女神ならやりかねん」


「なんで、いやそれはいい。これでお前の方が有利になったわけだ」


 なんだろう、佳純の様子がいつも違う。なんか禍々しさを感じるような気もする。


「ふふっ、ところであいつは記憶がないぞ」


 佳純がふてぶてしい笑顔で男に言う。それに衝撃を受けたらしい奴が声を張り上げる。


「なんだとっ、記憶がないって俺たちのことは」

「全く覚えていない。私は上手いこと小さい頃に見つけたからな。幼馴染ということになっている」


 えっ、佳純が僕を見つけて? いや、何を言っているんだ。小さい頃にそんなことはできないだろう。


「くっ、羨ましい、小さい頃は可愛かったんだろうな」


 悔しがる奴。それに自慢げに答える佳純。


「ああ、もちろんだ。なにしろ小さい頃は二人で一緒に風呂にも入ったしな……」


 まてまてまて、このままだと僕の黒歴史を話される。気がついたらいつの間にか僕の後ろに大崎を始めとした女子が何人もいた。ほとんどが文化祭実行委員だ。こいつら職権乱用していやがる。それは置いておくとして僕の黒歴史を彼女たちに聞かれたらまずい。学校に来られなくなる。僕は慌てて二人の前に出た。


「すとーーーーぷ、これ以上話さないでくれ、佳純」


 二人は僕の方を見てにやりと笑う。


「その辺の話はまたおいおい」


 佳純が言うと男はさも楽しそうに笑う。


「あぁ楽しみだ、ところで君の名前は?魔王!」


 今更だ……えっ、魔王? 今こいつ佳純のことを魔王って言った?


天木佳純(あまきかすみ)だ。貴様の名前はどうだ、勇者!」


 えっ、勇者? 勇者ってあの勇者?


「俺は聖勇気(ひじりゆうき)だ、で、聖女の今の名前は何という?」


 僕の方をみて聞く勇者こと聖勇気。聖女? いやいやいや聖女って女性でしょ? 僕は男だけど。


御神楽章(みかぐらあきら)だよ、聖くん」


 それを聞いた聖は佳純の肩を強く押してから離れ、僕の方に向かってくる。佳純がすこし肩を痛そうにしてうずくまっているのが見えた。佳純が心配でそちらに行こうとした僕を遮る聖。


「今は章というのか、会いたかった、17年待った。会いたかったよ」


 そう言いながら僕を抱きしめる聖。そのまま少しかがんで僕のくちびるを奪い長い長いキスを始めた。


「まちやがれこのクソ勇者、章から離れやがれ!」

 乱暴な言葉で騒ぐ佳純。そしてキャーキャーと騒ぐ女子たちの声が遠くに聞こえる。僕は頭の中がショートしてそのまま気を失ってしまった。


◆◆◆


ここは夢の中だ。周りは真っ暗だ。一人ぼっちだと思っていたが、遠くの暗いところに一人で泣いている女の子がいるのに気がついた。そちらに向かうと彼女の姿が大きくなる。へたり込む彼女は、ピンクの髪に黒い瞳、口紅を塗ってないのに赤い唇。幼さを残す顔に似合わない豊かな胸。


 ぼくが近寄ろうとするとぼくの方を見て顔を横に振る。それでも近寄ろうとするぼくに何やら声をかけた。何を言っているのかわからない。

 やがて何かに気がついた彼女は天を見上げ悲鳴をあげる。ぼくが駆更にかけ寄ろうとすると彼女を黒い炎が囲い込む。熱くて近寄れない。やがて黒い炎に覆い尽くされ彼女の姿が見えなくなった。僕は何か叫んだ気がする。そのとき炎の向こうから白く強い光が現われた。まぶしい、目を開けていられない。やがて瞼の向こうが暗くなった気配がする。目の前には何もない。黒い炎も彼女の姿は見えなくなっていた。


 目を開けると見知った顔が心配そうにぼくを覗き込んでいた。佳純だ。周りを見るとどうやら保健室のようだ。佳純が僕が寝ているベッドの横で椅子に腰かけていた。


「よかったぁ〜」


 佳純が半分泣顔で言う。彼女の後ろには大崎も立っていた。


「あんな奴に章を汚されたままじゃいけない、私が浄化……」

「だめよ佳純こんなところで」


 後ろから大崎茜がストップを掛けてくれた。


「二人きりの部屋でね。あと私たちも覗きやすいところがいいわ」


 こいつもだめだ。佳純さん、頷かない。それにしても佳純の泣き顔見たの久しぶりだなぁ。小学生の時にぼくが坂道から自転車で転げ落ちたとき以来かも。佳純を大崎が慰めてる。佳純からすると佳純を王子様扱いしない貴重な女子だからかな。仲が良い。不思議と大崎には嫉妬しない。


「むーむーむー」


 部屋の中のどこかからくぐもった声がする。声のする方を見るとイケメンが猿轡をされ縛られた状態で正座していた。

 

「えっと、あれは?」


 ぼくが聞くと大崎が答えてくれた。


「犯罪者は逮捕した」


 犯罪者、は大げさでは?

それが顔に出たのか大崎が続ける。


「男同士でも許可なくキスするのは犯罪者でしょ? 佳純にキスしたらあなたどうする?」


 うん、殺す。殺さなくても相応の報いは受けさせる。


「そういうことですよ」


 顔に出てたのか。


「それでも、さすがに縛るのはやりすぎだよ、ほどいてあげて」


 それを聞いた佳純はちょっと傷ついたようは表情をする。大崎にせっつかれた佳純がいやいやながらイケメンの縄をほどいてあげた。


「ところで、ええと、イケメン君、なんであんなことを?」


「すまなかった、ついつい君がかわいくて抑えがきかなかった」


「えーとー、イケメン君、なまえは?」


 そういえば名前を知らなかった。ぼくが名前を聞くとイケメン君はぱぁぁぁっと顔をほころばせる。


「勇気だ、聖勇気、よろしくな」


 なんかぼくが聖くんと話すと佳純から圧というか黒いオーラがでてきている気がする。


 もしかしたら、佳純はぼくがイケメン君と話してほしくない? やっぱり彼と知り合いで仲が良くて……好きな相手だから、僕が彼を取っちゃわないか心配なんだろうか?


 確かに外で話していた時はお互いに気心が知れた仲のように見えた。いや、二人は前世があるような口ぶりだった。そして、魔王と勇者? 禁断の恋の相手でもおかしくない。ラノベでよくあるパターンだ。ということは、前世で勇気君と佳純は恋人同士でその勇気君が今世で僕に一目ぼれしたので佳純が怒ってる?


 だめだ、考えがまとまらない。


「ごめん、もう少し寝かせて」


 そういうと僕はベッドに寝転びみんなに背を向けた。

結局、そのまま父親が迎えに来るまで寝ていた。いつもなら一緒に帰る佳純が来なかったのも気になった。

 

 何もなければそのまま元の平穏な生活に戻れる。そんなはかない希望が打ち砕かれたのは翌日のことだった。佳純がなんかぼくを腫物を扱うように接する。あまりそばに寄ってこない。何かあると用事といい離れていく。


 ぼくは佳純が好きなんだ。なのに、なんでイケメンが邪魔をする。前世なんてくそくらえだ。ぼくは今の生活が、そして佳純が好きなんだ。


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