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#02 前説




 何十回、何百回と同じことを繰り返す。

 始まりはいつもあの夜空。双子星を見上げている場面から。


 二度目はキャスを王子から遠ざけていれば、婚約破棄も国外追放も起きないと思っていた。

 しかし、王子とキャスの婚約は必ず結ばれ、学園の卒業パーティーで婚約破棄される流れは同じだった。


 僕はキャスから遠ざけられ、介入する余地もないまま同じ場面を見ることとなった。

 せめて隣国のクーデーターから救い出すくらいはしてみようと動いてみたが、キャスの居場所を探しているうちに殺されてしまった。


 三度目は直接的な介入は出来そうもないので、王子とその周辺のスキャンダルを探して、婚約破棄されたとしてもキャスに同情が行くように計らってみたが、やはり王家の力は絶大で、王子のスキャンダルなど容易に揉み消されてしまう。


 そしてキャスは同じようにいつの間にか誰かに殺されるのだ。


 四度目。いい加減うんざりしてきた自分がいる。

 スタートは同じだが、僕の寿命はまちまちである。二度目の時は結局僕もクーデーターに巻き込まれて死んだし、三度目はそこは生き延びたがその後帰国してから毒を盛られて暗殺された。


 一体何回繰り返せば終わるのか。

 試しに何もしないでみたら、一度目と同じ道筋を辿った。僕は八十まで生きて老衰で死んだ。


 そして、再び夜空を見上げる。


 五度目以降は、キャスがどうこうよりも原因の追及が始まった。

 一度だけなら神の気まぐれか、何かの偶然ということもあるが、これだけ繰り返すということは何か理由や原因があるに違いない。


 国中の文献を漁るために勉学に励み、高官となって禁書庫の資料までも読み漁り、果ては他国まで赴いて情報を求めた。


 しかし、眉唾物の迷信はあるにせよ、信憑性のある情報は無く、自分に起きていることを上手く説明は出来なかった。


 凡そこの世界にある、ありとあらゆる既存の情報は検討し終えたと結論したのはいったい何度繰り返した後だったか。


 外部的な解決手段は無いと諦め、現実の分析に重点を置き換えることとする。


 はじまりは十歳の秋。

 キャスが王子のお茶会に行った帰り道、盗賊に襲われ馬車が暴走し、崖から転落した後から。


 僕は両足と肋骨と頭蓋が折れた状態でスタートし、何もしなければ翌々日に救助される。

 その場合以降学園入学までキャスに会うことも無く、入学後もキャスとの接点は作れない。


 この時点で僕がキャスを救助し、公爵邸へ運んだ場合、婚約者候補から降りる話が持ち上がるが、結局王家が自分たちの汚点を覆い隠したいという理由から婚約を強く推し進め、同じルートに立ち戻る。


 違いと言えば、盗賊に身を汚された噂が僕と何かあったのではないかとの噂に変わるくらいだ。多少、マシと言えばマシだが、話の本筋が変わっているとは思えない。


 学園入学までの二年間。

 キャスは王子とのお茶会などを繰り返し、周囲からの誹謗中傷に晒され、厳しい王妃教育に心身が蝕まれていく。


 学園に入る十二歳になるころにはすっかりと人間不信で、周囲が全て敵に見ている状態。人を上か下かでしか判断できず、上に阿り、下に厳しい卑屈な性格になる。


 不快なことがあればヒステリックにがなり立て、身分を傘に取り巻きを使って横暴に振る舞う。死後演劇で悪役令嬢と呼ばれるだけの酷い女の出来上がりである。


 そんなキャスに王子は嫌気が差して行く。そもそもが自分で差配したわけでもない護衛の手配で不手際があり、その尻拭いを王子が取っている形である。せめてキャスが魅力的な女性に成長すれば救いもあったが、客観的に見れば最悪の一歩手前といった有様である。


 貧乏くじを引かされたと、どんどんと心が冷えていくのもむべなるかな。

 そうなると更にキャスの心は荒み、悪行が積み重なって三年後には破滅を迎える訳である。


 色々と周辺に介入しながら観察したが、学園の卒業バーティ―で婚約破棄され国外追放、クーデーターでデッドエンドの流れは変わらなかった。


 一度お試しで学園入学前の王子を暗殺したことがある。

 そうしたら別の王子が生えてきた。


 意味が分からないと思うが、僕も意味が分からなかった。

 それまで繰り返した中では影も形も無かった新たな王妃と子供がいたことになっていて、キャスの婚約者に収まっていた。


 それならばとそいつも暗殺してみると、更にもう一匹生えてきた。

 五人殺したところで視界が暗転し、夜空の場所に戻っていた。


 都合五回ほど同じことを繰り返して検証した結果、王子を暗殺するのはNGで、強制終了させられるらしい。


 これは何なのだろう?

 本当に世界がキャスを殺したがっているとしか思えない。

 それも、ただ殺すのではなく、悪者として、蔑まれるものとして、尊厳を踏みにじられ、民衆に死を歓喜されるかのような無様な死を望まれている。


 まるで舞台のようだ。

 繰り返しが百回を超えたあたりで、ふとそんな発想に思い至り、そしてそれが妙に腑に落ちた。


 この世界は、誰かが観劇する舞台のようなもので、キャスは悪役令嬢として宿命づけられた存在なのではないだろうか。


 悪役は悪役らしく、無様にみっともなく死んで観衆を喜ばせなければならない。


 なるほど。だから、そのシナリオから外れるような真似は出来ないと言うわけか。

 荒唐無稽のような話ではあるが、キャスが死んだあとの世界には決まり事が無い。


 千変万化。シナリオから開放されて、どのようにでも変化し得ると分かっている。

 試しに王子を殺しても新たに生えてくることはなかったし、王国そのものを滅ぼしてもそれで強制終了させられることも無かった。


 シナリオは恐らく婚約破棄され、キャスが殺されるところまで。


 キャスは悪役令嬢にならなくてはならないし、観衆のヘイトを集めた上で最後には婚約破棄され、無様に死ぬしかない。


 僕が繰り返している理由は良く分からない。だが何か意味があるというなら、やはりこの哀れな幼馴染を救う事なのだろう。損な役回りを無理やり押し付けられて、どこかの誰かの一次的な悦楽の為に犠牲になる。


 体感数千年を既に生き、凡そ人間に出来得る体験は概ね経験した僕に、青臭い正義感も騎士道精神もありはしないが、それでも幼少期を共に過ごした少女に対する憐憫程度はある。


 魂に刻まれたこれまでの繰り返しの記憶のほかに、スタート地点に立ち返る度に幼少期の記憶が鮮明に蘇る。

 正確にはその記憶のある肉体に魂が還るために起こる現象だとは思うが、枯れた精神がその度に少しだけ潤うのだ。


「とはいえ、そろそろ終わりにしたいものだな」

 あまりに億劫で、もはや数えてもいない繰り返しを、次で最後にと思い命を断つ。


 呆れるほど繰り返した検証もこれで終わり。

 次で達成し得なければ、恐らくこのシナリオを変えることは不可能で、後は繰り返しを起こさないために魂を砕く魔法でも開発するしかないだろうか。


 キーマンは三人。

 悪役令嬢と王子、それからヒロインである。




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