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八咫烏の姫君  作者: Ryo
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素直になって 4

 紅葉が思い耽っていると、唐突に四季が顔を寄せてきた。ゆっくりと、だが着実に近づいてくる四季の顔に驚いて、紅葉は咄嗟にその四季の顔面を両手で押さえた。


「……なんだよ、この手」

「いや、四季こそ、なんなの」

「何って……、見りゃ分かるだろ」

「~~分かんないッ!!」


 そりゃいくらなんでも、紅葉だって四季のその行動の意味くらい分かる。あのままされるがままになっていたら、四季とキスしていた事だろう。

 しかし、心の準備はおろか、まだ私達の間で大事なことを確認していない。


 ——私と四季、どういう関係なの?


 だが、それを確認しようにも、ストレートに告げれば紅葉の方が期待しているみたいで、なんだか癪だ。かといって、四季が何とも思ってない相手にそういった行為をするとは考えにくいのだが。

 対面に座っている四季は、この今の二人の現状をなんとも思っていないのか、紅葉に制止されたことに少し不機嫌に眉を寄せている


(こっちが不機嫌になりたいわよ!)


 紅葉が心の中で悪態をついた 丁度その時、紅葉のスマホに着信音が鳴った。


「あ、電話……」


 メッセージなどの連絡ではない。これは、着信音だった。規則正しい振動が、鞄の中で引き起こされている。

 だがこれはチャンスだ。合法的に四季から距離を取る、絶好の機会。

 紅葉が手持ちのバッグに入っているスマホに手を伸ばそうとすると、その紅葉の行動を四季が制した。紅葉の手を握り、真っ直ぐに紅葉の方を見つめている。

 その四季からの視線に気圧されながらも、紅葉は四季の瞳をグッと見つめ返し、そして譲らぬ態度で言い放つ。


「鳴ってるから」

「いいだろ、別に」

「ダメだよ、緊急かもしれないじゃん」

「この時間だぞ、逆に誰だよ」


 なおも邪魔をする四季に、紅葉はだんだんと腹が立ってくる。


「あのね、四季。私にもプライベートというものがあるんだけど」

「そうなのか。そりゃ初知りだ」


 その四季の言葉にカチンと頭にきた紅葉は、掴まれている阪大側の手に少し元素を込めて、それを力強く握りしめ、四季の鳩尾に軽く拳を突き出す。

 大した威力ではないはずだが、急な衝撃に受け身が取れず、四季は腹を押さえて身じろいた。


「おま……」

「四季が悪い! ……あ、お母さんだ」


 紅葉がスマホを確認すると、そこには母、百合子の名前が液晶に映し出されている。

 どうしたのかと紅葉が通話ボタンを押すと、もはや通話口に耳を当てなくても良いのではと思うくらいの大きな声量が聞こえてくる。

 四季にも百合子の声が届いたのか、驚いたように目を丸くしている。


『紅葉!? あなた今何時だと思ってるの! 暁から連絡あって、びっくりしちゃったじゃない!」

 百合子はなおも大音量で捲し立てるように話している。紅葉ならず四季までも、その百合子の怒りように言葉もでないようだった。


「ご、ごめんお母さん……。もう直ぐ戻るから」

「女の子1人きりでこんな遅くにふらついて! 何かあったらどうするの! 私はそんな不良娘に育てた覚えはありませんよ!」


 その百合子の言葉を聞いて、紅葉はキョトンとした言葉を浮かべた。


「何言ってんのお母さん、四季もいっ……んぐ」


 四季も一緒、と言おうとしたところで、隣に座っている四季に口を塞がれた。


「馬鹿、今日の同伴は百合子さんには秘密」


 コソコソと四季が耳元で囁く。


 ——そうだった。


 今日、家を出た直後に言われた暁の言葉を思い出す。


≪そうだ。この事は母さんには内緒ね≫

≪俺の花嫁探しとか、四季が同行者とか、ぜーんぶ秘密。バレたら雷が落ちるよ〜≫


 色々と疲れがピークに達している今日の終わりに、雷は落とされたくない。


『ちょっと、紅葉?』


 百合子の問いかけにビクリと肩を跳ねさせた紅葉は、反射的に嘘の言葉を口にする。


「あ、ああ~、ちょっとね、あまりにも綺麗なお月さまだったからさ!? お月見してたのよあはは~」


 苦し紛れの言い訳に、電話口の方からまた金成声が聞こえてくる。


「全く! 早く帰ってらっしゃい! それか、今から車で迎えに行くから!」


 なんとあの出不精の百合子が、わざわざ車を用意すると言っている。紅葉のみだとありがたい申し出だと思うが、今は生憎四季がいる。ここで紅葉だけ車で迎えに来てもらう訳にはいかない。


「大丈夫!! お母さんは明日のお弁当作りで忙しいでしょ!? すぐに帰るから、じゃあね!」


 そう言って、一方的に紅葉は通話を終了させる。

 先程のにぎやかな空間から一変して、今の二人の間には、ただ静寂が流れている。

 こうなっては、ムードもクソもない。

 紅葉と四季は、どちらかともなく顔を見合い、そして少しおかしそうに笑って同時に言った。


「帰るか」「帰ろっか」


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