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八咫烏の姫君  作者: Ryo
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 光の元素は跡形もなく消え去り、その代わりに、まるでダークホールを体現したかのような、黒い小さな渦がトキの指先に出現する。

 螺旋を幾つも巻いて、まるでそれに触れてしまえば呑み込まれてしまうくらいの勢いだ。


「僕が少しこの元素もらっちゃったから、代わりに僕の元素を分けてあげたんだ。これで平等だよね」


 そう言って、また屈託なく笑うトキ。トキがおもむろに人差し指を前へ振ると、黒く小さな渦はトキの指を離れ、ふよふよと宙へと飛んで行く。

 幾ばくか経ち、もうその渦ははるか遠くに飛んでいき、月の輝きと同化して見えなくなっていった。

 だが、次の瞬間、トキとヨミの耳に、はるか遠くで何かが爆発する音が聞こえてきた。

 その爆発音が聞こえると同時に、トキから表情が消え失せた。青白い顔色がその不気味さを異様な程に引き立てていて、まるで生気のない人形のようだ。


「……いくら人間たちが元素を持ってようが、僕たちに敵うはずもない。全ては、あのお方に与えられた力だけが、本物なんだ」


 トキはそう言って、拳をギュッと握った。握った拍子に爪が肉へと食い込み、皮膚が切れてポタポタと血が滴り落ちていく。


 ヨミはその様子を、ただ黙ってじっと見ていた。

 ヨミは、どちらかというと感情表現が豊かな方ではなく、むしろ鉄かと思うほどに無表情な男だ。

 だが、そんなヨミの表情が、今はどこか柔らかかった。ほっと一息つくような、安堵した様子をその瞳に宿している。


「……なぁに、ヨミ。僕がどこかへ行ってしまうとでも思った?」


 トキの問いかけに、ヨミの片眉がぴくりと上がる。ヨミの様子に、トキは赤子を宥めるような優しい声音で続けた。


「安心して。僕があの方を裏切るなんてあり得ないよ。……お前のこともね」


 二人を、大きく青白い月だけが照らしている。その月を背に、トキは熟したリンゴのように赤い唇をゆるりと緩めてヨミの方を振り返る。

 そんなトキの姿がヨミには儚く映り、まるでそのまま月と同化して消えてしまいそうな印象を与えていた。


「……分かっている。ただ、次からは何も言わずに出ていくな」


 ヨミはトキに歩み寄り、血が滲むトキの手をそっと取る。そしてその傷跡をなぞると、トキの傍らに片膝をついた。

 赤い血がトキの手を伝い、ヨミへとしたたり落ちる。

 それを厭わないというように、ヨミはそっと、その傷口に口付けを落とした。

 赤い血がヨミの唇を濡らすが、ヨミはなおもそれを拭おうとせずに、真っ直ぐにトキを見つめていた。

 それはまるで、主人と従者のそれのように美しく、だが、ヨミのトキを見つめるその瞳は、どこか盲目的で熱がこもっている。


「心配性だね。僕のヨミ」


 トキはふっと笑って、ヨミからその手をするりと引き抜いた。

 そうして自分で手のひらの傷を一つ舐めた。チュ……と微かに濡れた音が鳴る。

 次の瞬間、トキの傷ついた手のひらが、みるみる内に治っていく。


「どんな傷だって、僕の手にかかればこの通りさ」

「だとしても、自分の身体を自分自身で傷つけるのはやめてくれ」


 ヨミは呆れたようにため息をつき、そしてトキと同じ目線に立つ。そこには、先ほどまでの熱い視線ではなく、普段のヨミの、淡々とした雰囲気が戻ってきていた。


「頭の隅に留めておくよ」


 トキはトントン、とこめかみ部分を軽く叩いた。それでもヨミは不服そうな表情を浮かべているが、こればっかりはトキも「性分なんだ、知ってるだろ?」とヨミを諫めた。


「なんにせよ、後はもうただ目的のために動けばいい。そのために、僕たちはここへきたのだから」


 トキはまた、暗い闇が蔓延るこの黒い世界から青白い月を見上げて、そしてこれから起こる悲劇を想像し、感嘆のため息を漏らした——。


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