表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
八咫烏の姫君  作者: Ryo
20/45

悲しみの種と愉快の根付き

「……今は、状況が違うだろ」


 四季は、真っ直ぐ紅葉を見つめていたその目線をふいっとそらし、バツが悪そうにそう呟く。

 ギリ……と歯を食いしばり、一旦全ての息を吐き切った後、また真っ直ぐに紅葉を見つめた。

 その瞳には、どこか覚悟が滲んでいる。その四季の眼差しに、紅葉は心臓がドクリと疼いた。高鳴りなどではない、どこか悪い予感が、心臓を叩いて暴れている。



「はっきり言って、今の紅葉に出来ることは何もない」



 鈍器で頭をガツンと殴られたような衝撃が、紅葉の身体に走る。

 四季はそう言ったっきり、紅葉に背を向けて結界の精製に集中してしまった。

 二人の間にどんよりとした空気が流れ始めた丁度その時、暁が紅葉の後方から姿を現した。


「紅葉!四季!無事かい?」


 暁は開口一番にそう問いかけたが、二人からの返事はない。暁は、そのことを不思議に思うのと同時に、何かを察したように「……なるほど?」と小首を傾げた。


「とりあえず一通り四季の式神から話は聞いたよ」


 そう言うと暁は、紅葉の頭にポンッと手を乗せた後、その先にいる四季の元へ歩みを進めた。

 そして四季の顔へ自身の顔を近づけると、小さくボソボソと呟いた。


「……明日朝イチ、公園水車前で」


 そう言うと、ポンポン、と四季の肩を叩き、また紅葉の方を振り返る。


「それじゃ、紅葉行くよ」


 暁は右手で紅葉の手を取り、左手で印を結ぶ。そうして、その場で護符を二枚取り出し、それをばさっと宙に投げた。


「転移」


 暁がそう唱えると、護符の中に吸い込まれるように、二人の姿が消えてゆく。高難易度の瞬間移動術だ。しかも、己のみでなく紅葉を連れてそれをやってみせる暁を見て、四季は思わず感嘆の声をあげた。


「……すげ」


 その呟きがいい終わるか否かで、二人の姿は完全に見えなくなってしまう。

 だが、四季は見逃さなかった。

 姿が消えてしまうそのほんのわずか、紅葉が四季の方を振り返ったのだ。その瞳の端にはうっすらと涙が滲んでいたことを、四季は見てしまった。

 その事実が、燻る火種のようにジリジリと四季の胸を締め付けた。四季は、姿を消した二人の方を見て、ギュッと心臓の部分を抑えたまま、しばらくその場で立ち尽くしていた——。


 



「トキ」


 月がすぐ目の前で、煌々とした灯りを灯している。まんまるのその形はまるでこちらの世界をも飲み込んでしまうほど巨大で、だがしかしそれも悪くないと思えてしまうほどに美しい曲線を描いている。

 名を呼ばれたトキは、月を見上げたまま声をかけてきた方へと返事をした。


「ん〜? なに? ヨミ」


 ヨミと呼ばれた男は、はぁ、とため息をつき、月ばかりを見上げているトキの頭を無理やり自分の方へと向ける。


「痛い痛い、首がもげちゃうよ」


 ははは、と軽く笑いながら、トキはヨミの手を払いのける。なおもヨミは硬い表情を浮かべたまま、トキに向かって叱責の声をあげた。


「勝手な行動を取るな。それに、また研究所から成長途中の怨霊を連れて行っただろう」

「ああ、あの役立たずたち?全然使えなかったよ。もう秒殺。時間稼ぎもできない」

「それはまだ未成熟だったからだ」


 ヨミの言葉に、トキはやれやれ、と肩をすくめると、人差し指を目の前に突き立て、くるくると回してみせる。

 すると、トキの指先の先端に、ポウ、と光が灯った。


「それは……」


 目を見張るヨミを見て、トキは満足そうにニヤリと笑う。


「珍しいよねぇ、地球は元素が少し違うみたい」


 自分の指先に灯っている光を、トキはふぅっと吹いて掻き消した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ