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八咫烏の姫君  作者: Ryo
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すれ違いの合図

 今日ほど、もっと足を前に、早く、と願ったことはないかもしれない。

 いや、一度だけあったか。幼い頃、紅葉が怨霊に襲われかけたあの日。まだまだ四季は未熟で、結界の揺らぎがあまり感知できなかった。

 だから、あれは不幸中の幸いだった。四季はあの時、紅葉が怨霊と対峙した場所からほど近くにいたことによって、悲鳴が聞こえた直後にすぐ助け出すことが出来たのだ。

 あの時も今と同じように、もっと早く、足を前に進めろと、自分自身を鼓舞して走った。


 木々の合間から、平屋の屋根が見えてくる。その上に浮かぶ月は煌々と光り輝いていて、不気味なほど大きく、青白い色をしている。


 ——どうか無事であってくれ。


 その四季の祈りが届いたのか否か。

 まず最初に目に飛び込んできたのは、紅葉の姿。だが、紅葉の体は不自然に硬直しており、その左腕にはうっすらと血が滲んでいる。

 そうして、紅葉の直線上にもう一人、違う影が見える。それは、赤い唇で弧を描き、三日月のように瞳を緩ませている、透き通るように青白い皮膚をした人だった。整ったその造形は、中世的で美しいが、まるで生気のない人形のような不気味さを醸し出している。


「紅葉!!」


 声を上げて紅葉の名を叫ぶ。紅葉は四季の声に反応して、ピクリと頭を震わせたが、体が拘束されているのかうまく身動きが取れないでいる。

 青年は四季の姿を確認した後、紅葉の耳元で何かを囁いた。そうして今度は紅葉から離れて舞うように宙へと浮上する。


 青年のその身体は霞んだ夜空にうっすらと同化し、とうとう見えなくなってしまった。




 青年の姿が見えなくなった同時に、紅葉の身体の自由を奪っていた糸がプツン、と途切れ、全身が解放される。

 その場にへなりと座り込む紅葉の傍に、息を切らせた四季が駆けつけた。


「四季……」


 紅葉の心臓は未だどくどくと脈打っていて、血流が全身にみなぎっていくのが身体を通して伝わってくる。

 胸を押さえるような仕草を取る紅葉に、四季は目線を合わせるように膝をついた。


「無事か!?」


 紅葉の全身をくまなく確認するように、隅から隅まで見て回る四季。あまりの慌てぶりに、逆に紅葉のほうが落ち着いてしまった。


「だ、大丈夫、何ともない……」

「本当だろうな?」


 四季が訝しむようにジトリと紅葉を睨む。それに対し、紅葉は勢いよくブンブンと首を縦に振った。

 一呼吸おいて、安堵するようなため息が四季から漏れた。


(随分と心配させちゃったな)


 四季は紅葉の無事を一通り確認すると、今度は少し業務的に、紅葉に問いかける。


「さっきの奴は何者だ?」

「分からない……でも、名前はトキって言ってた」

「……そうか」


 申し訳なく思う紅葉とは対照的に、四季はすぐさま立ち上がり、指で印を結ぶ。

 すると、四季の周りに円柱の結界が敷かれた。その結界はどんどんと幅を広げ、やがて紅葉を飲み込んだ。だがなお、結界は広がりを緩めようとはしない。

 少し苦しそうに額に汗を滲ませる四季は、傍で待機していた白虎へ言葉をかけた。


「白虎、結界内にある奴の残穢を辿れるか」


 その言葉に対し、白虎は軽く物申す。


『辿れるが、恐らくもう奴はおらんぞ』

「今日放たれた怨霊達は、奴と関わりがあると考えられる。どんなことでもいい。情報をできるだけ集めてくれ」


 その四季の命に対し、白虎はフッと微笑んで、『承知した』と返事をして姿を眩ました。


『四季様、私も一緒に』


 天后が進言するも、四季は首を横に振った。そうして、紅葉を見ながら天后に指示を出す。


「天后は紅葉の傍についててくれ。暁に使いを出す」


 そう言って、四季は護符を取り出し、鳥型の式神を生成する。白い羽を瞬パタパタと羽ばたかせその場に浮遊する鳥に、四季は更に術をかけた。一瞬、鳥の身体が虹色に輝いたかと思うと、次第に鳥の姿は見えなくなっていった。

 いつの間に、こんな高度な術が扱えるようになったのか。護符を用いた術には練度があるが、姿を隠すような術は、明らかに高難易度のものだった。


「……四季」

「紅葉、暁がここへ到着したら、先に帰るんだ」


 四季は紅葉が怪我をした時、危険な目にあった時、いつも淡々とした様子で話を進めていく。

 だが、今日の四季はそうではなかった。紅葉のことを揶揄って遊ぶあの雰囲気を思わせるような、いつもの四季だ。


 ……だから、不安になる。


 紅葉には、目の前の四季がとても遠く感じた。まるで自分に近づかないようにしているみたいだ。


「待って四季、私は大丈夫」

「ダメだ。帰るんだ」

「だって私も、八咫烏の一人だよ」

「……今日は色々あって疲れてるだろ。俺だけで後は問題ない」


 紅葉がどれだけ訴えても、四季は首を縦に振ることはない。紅葉もそれは分かっているが、どうしても後には引けなかった。


「四季、言ったじゃん。術者としての力は同年代の中でも1、2を争えるくらいだって」


 以前、美術準備室で四季が紅葉に言った言葉だ。四季は少し目を見開き、紅葉を見つめる。


「……嬉しかったのに」


 本当は紅葉も分かっていたのだ。これまでも、四季は戦場で共に戦う紅葉を、常に気を張って見守ってくれていたことに。紅葉の力だけでは、ここまでは戦えない。四季の元素の供給があるおかげで、紅葉は自分の120%の実力が出せているのだ。供給がなければ、怨霊を二体倒すのがやっとのことだろう。

 だから余計に、あの時四季に言われた言葉は、紅葉にとっては涙が出るくらい喜ばしいことだったのだ。


結構すれ違いがあった二人ですが、ここでまた大きいすれ違いが起きようとしているかもです……。

よろしくお願いいたします!

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