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八咫烏の姫君  作者: Ryo
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危機は嵐のように

少し前ーー。


『全く、四季様はもうちょっと素直になるべきでございます』


 隣を歩いていた天后が、突然そのようなことを口走った。チラリとそちらを見てみると、天后は口元を手で押さえ、こちらをジトリと見ている。


「何だ急に」


 まぁ大体思い当たる節は分かっているが、しらばっくれるように聞き返す。


『ほら!分かっているのにはぐらかす!幼い頃からの悪い癖でごさいますよ?』

 どうやら四季の対応は、天后のお気に召さなかったらしい。天后は両手を腰に当て、フンっと鼻を鳴らした。


『まぁそう怒るな。色恋に関しては、四季はまだまだ赤子も同然なのだ』


 そのやりとりを少し引いたところで見ていた白虎が、ククク、と喉を鳴らしながら口を挟んだ。


「何笑ってんだよ」

『いやな、先程の余裕ないお主を見たらつい』


 余裕ない、という白虎の言葉に、四季は眉間に思いっきり皺を寄せ、不貞腐れるように唇を尖らせた。


「うるせーよ」

『もう少し、女の遊び方を覚えた方がいい。なんなら俺が教えてやろうか。暁も俺が指導した』


 図星をつかれたのが少し痛い。それ以上何も言えないことを良いことに、白虎は突拍子もない提案をし出す。


『白虎様!ふしだらです!』


 そんな白虎を嗜めるように、天后が叱責の声を上げた。そんな天后に、『おお、怖い』と言いながら白虎は両手を上げて降参のフリをする。


「言われなくても分かってるっつの」


 四季はため息を一つこぼし、そうして自分の手を見つめた。先ほどまで、その手の中にいたぬくもりを思い出す。


『女子は柔いだろう』


 白虎が四季のすぐ側まで寄り、悪魔のような笑みを浮かべて、四季に囁いた。手に残る感覚を言語化されたことによって、四季の耳が少しばかり赤く染まる。


『お主も年頃だからな。熱に浮かれるのは無理もない』

『もう!白虎様!?四季様に余計なことを吹き込むのはおやめください!』


 天后は四季から白虎を引き剥がすように、白虎の腕に手を回した。


『おお、なんだ今日は随分と積極的だな』

『言い方が卑猥ですわッ!!』


 ——歪みあってるのか、仲が良いのかよくわからないな。

 だが、そんなことを口にしてしまっては、天后からまた言葉の槍が飛んでくるから、心の中で留めておいた。


『良いですか、四季様。紅葉様は、それはそれは美しく成長なされましたわ。それはもう、まるで月に住む姫君のように、光り輝いております。あんまりうかうかなさっていると、あっという間に他の殿方に掻っ攫われてしまいますからね!』


 まるで小さい子供に言い聞かせるように、天后は丁寧に説き伏せる。

 ツンツンと小言を申す天后を見て、四季は思わずフッと笑みを浮かべた。


『何を笑ってるんですか』

「いや、母親がいたらこんな感じかと思って」


 その四季の言葉に、天后は少し複雑そうな表情を浮かべた。

 そんな二人の会話の間を繋ぐように、白虎が言葉を発する。


桜子(さくらこ)は物静かな女子だったからな。天后のように口うるさくはなかったと思うぞ』


 懐かしい名前が、四季の鼓膜を震わせる。

 四季の母親・御門桜子も術者ではあったが、とても体が弱く、ひと月の大半は床に伏せていた。だが、朧げではあるが、四季の名を呼ぶ声はいつも心地よく澄んでいて、まるで春のうららかな木漏れ日のように暖かであったことを覚えている。


『まぁ、誰が口うるさいですか』


 白虎に軽く反論して見せるも、天后も白虎もそれ以上何も言わず、もう見ぬその面影を追うかのように、遠くの方を見つめている。




 24時を知らせる鐘が、敷地内に響き渡った。


 微かに結界が揺らぐのを感じた。外から怨霊が侵入したことを知らせる、肌が少しピリつくような感覚だ。それを皮切りに、怨霊が四方から姿を現す。


「白虎と天后は東の2体を頼む。俺は西を狩る」

『承知』『承知しました』


 四季の合図により、三人はバラバラに散らばる。見たところ、怨霊の力はさほど強くはない。すでに張られている結界の電流を浴びていて、いくばくか傷を負っているのが見えた。


「ハッ!」


 剣を一突き、真ん中にいる怨霊に向かって突き立てた。狙いは急所である心臓だ。

 怨霊の体を貫いた四季の剣は、一度ぴたりと止まって、今度は勢いよく真横へ引き抜かれる。


「グアギィィィィ!!!」


 血を這うような悲鳴が辺りへと響き渡り、目の前の怨霊の身体が塵屑のようにボロボロと消えてなくなってゆく。四季はすかさず右側へ忍び寄っていた怨霊へ剣を振りかざし、その勢いのまま左方向へ回転し、もう一人の体も剣で串刺した。


「……弱いな」


 あまりの手応えのなさに疑問を覚えつつ、白虎たちが向かった北側の方へ足を向けようとしたその時。


「!?」


 脳に電流が走ったような感覚が身体に響き、四季は進めていた足を止めた。この感覚は敵ではない。紅葉を守っていた結界が壊れたのだ。だがしかし、内側から解かれたようで、どうやら紅葉が破ったみたいだった。


(もう身体は大丈夫なのか?)


 紅葉のことだから、きっといても立ってもいられずに抜け出したのだろう。

 そうたかを括っていたが、その予測は脆くも簡単に天后の言葉によって打ち砕かれる。


『四季様!!紅葉様が…ッ』


 天后から放たれた急いた声に反応し、四季は弾かれるように地面を蹴った。


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