Prologue
さて、一つ問おうか。
”なぜ人を殺すことが駄目なのか。”
僕の中での答えは決まっている。君はどうだろう。
僕の答えは「迷惑だから」、だ。被害者遺族の気持ちになれば至極当たり前の感情だろう。自分の知り合いの領域に他者が入り込み、命を奪って去って行く。その行為にはそれ相応の罰が必要だと考えるのは必至だ。
では悲しむ人間がいない人を殺害した場合、これはどうだろう。家族もいない。友人もいない。知り合いすらもいない。天涯孤独の人間を、誰も見ていないところで殺害し、処理をする。残酷な現場を見せるという不快感を誰にも与えていないから公共の利益を害していない。誰にも迷惑をかけていない。これは駄目なことだろうか。
…………変な事を聞いてしまったね。実はこんなくだらない質問は僕が伝えたいことの主題ではないんだ。
僕が言いたいのは、「人はどこかしら、何かで必ず繋がっている」ということだ。だってそうだろう?さっきの話、誰にも迷惑をかけない殺人は殺人とは言わない。誰かが死体を発見しなければ事件にならないんだから。「迷惑をかけない殺人は善か悪か?」という質問は、「王水の海で泳ぐときはクロールか平泳ぎか?」くらい無意味でふざけた質問だ。
つまり僕が15年前、命を刈り取ったのは人ではないということになる。
…………え?意味がわからない?論理が破綻している?
よしてくれよ。全部嘘さ。僕は誰も殺していないよ。ちょっと哲学者っぽいことを言ってみたかっただけだ。
…………あ。でも一つだけ嘘じゃない。「人はどこかしら、何かで必ず繋がっている」って部分。
だから僕は、唯一の友人である君を失えば、人ではなくなるかもしれないね。
君との繋がりは、第一優先だから。