プロローグ
こんにちはこんばんは。
数年前に書き溜めてた作品です。
投稿するつもりは無かったのですが、整理という意味で気分で投稿しました。
読んでいただけますと幸いです。
あ、ももももちろんあの作品の執筆もしてますからね!あっちの方も!
とりあえず、ごゆるりと楽しんできただけたらなーっと思います。
英雄。
それは、優れた才と力を有し偉業を成し遂げた人間。
世界各国、必ず一人は存在する偉業を成す者は誕生する。それはどの世界でも、異世界でも。
知名度や認知度の広さと高さは差異はあれど、偉業を成したのなら英雄である他ならない。
しかし、大抵の英雄は名を知られているが中には自らの名を語らずただ 己の為だけに偉業を成す者もいる。だが、全ての英雄達の元を辿れば己の為だけで偉業を成してはいるのだ。
ただ、それが 暇潰しや単なる運動だったり、偉業を娯楽としている者は少数だ。
誰かの為、野望の為、名声の為、富の為という何かしらの抽象的―――――或いは明確な目的があるのが大抵だ。
「――――――全く、わしは戦いとうないと言ったのにのぅ」
その者は着物を纏う獣人の陰陽師であった。
金色の髪を靡かせ、同じ色の狐耳と九つの尾を揺らす控え目ではあるものの鮮やかな着物は高貴な存在が纏うべき衣なる礼装。その着物を纏うに相応しい、その狐獣人もまた酷く美しい者である。
褐色の肌に金色の髪はミスマッチしており、例え同性であろうがその狐陰陽師に魅了されるだろうその美貌だが、その者の辺りは想像とはあまりにも掛け離れていた。
血、血、血、血―――――――――。
辺りは血に染まり返っていた。
恐らくその血の持ち主である存在は、あまりにも巨体過ぎるドラゴンであった。この世の最高位種族であり、あらゆるモンスターが到達する領域だ。
謂わば、最終地点であり最終進化だ。
目の前に屍の様に化したドラゴンは、蛇のドラゴンだ。街や村なら通り過ぎるだけで壊滅してしまう程の巨体に生半可な武器ではその鱗を突き抜ける事も出来ない。例え国が討伐しようとしても苦戦を強いられるのは間違いないだろう。どれだけの犠牲者が出るか。加えてドラゴンは知能も高い。それ故に人の言葉を理解し、単純な行動をするわけがない。
―――――――が、そんなドラゴンを蹴散らす存在がそこに一人。
「半殺しじゃ。さっさと去れ。無意味な殺生はする気は毛頭ない」
《ば、バケモノめ――――――》
「蛇畜生が強がってほざくでない。このままでは人が来て殺られてしまうぞ」
《ぐっ…………ここで殺さぬか。このドラゴンを》
「殺して何となる?」
《人間ならば、ドラゴンを殺し晒せば英雄にでも慣れるだろう》
「英雄じゃと?」
《富も名声も、全てが手に入る―――――それを、ワザワザ逃すのか》
「下らん。まず、宿主からは目立ちたくないという意見を尊重しておる。そもそも――――――英雄なんざ、とうの前世で飽きる程成し遂げたわ。面倒なのも御免じゃしな」
《宿主、前世――――――――そう、か。キサマ程のツワモノに殺されるのも光栄だとは思ったが…………求めぬか。あいわかった。敗者は勝者の言葉に従おう》
血だらけのドラゴンは痛々しい巨体を引き摺りながらもそのまま地響きを立てながら鋭い頭部をドリルの様にし、身体を回転させて大地の底へ潜り去ってしまう。
《強き者よ。神如き者よ、ワレは敗者として、貴殿らに従おう。もし、ワレが必要であれば呼ぶといい。この大地であれば、貴殿の力を辿り姿を現せられるだろう》
もし、常人ならばこの世界の最強生物種であるドラゴンの力を借りられるというのは、その力を得られたということ。過去にはドラゴンを使役した英雄も存在している。ドラゴンを使役出来るならば、国にも多大なる利益になるのは間違いない。
これを断る、いや呼ばないのは愚か極まりないだろう。
が――――――。
「いや、フツーにいらんのじゃが。絶対呼ばんし」
その者は、断った。
非常に嫌そうに、そして困ったように。
心の底から、真心を込めて断ったのだ。
《……………………………いやソコ、大人しく受け取っときません?何時でも何処でも参上しますよ、ワタシ》
「え、いらん」
去ったと思えば、顔だけひょっこり出して抗議をするドラゴン。見た目は蛇っぽいが故に妙に顔出しだけならデカいものの愛らしさもあったりするが関係無く即拒否したのだ。
《ま、マジっすか。じゃ、じゃぁ、せめて貴方の眷属になるとかどうです?結構アタシ強いですよ?一応人間達からは【ナル・イムル】って名前つけられてるんで―――――あ、ちょっと面倒くさそうな目で見ないでっ!?》
「キャラ変わり過ぎじゃないかの?」
《ゆ、夢だったんですよぉっ!ここ300年、地中は暇で暇で…………ドラゴン界で、イケメンや美女の使い魔になったとか、賑わってて、アタシも美人さんの使い魔になれたらって!》
「え、ドラゴン界とかそういう界隈あるのかの!?」
《それに、殺されたり死にかけたドラゴン達はイケメンに、美女にとどめさせられたとか、翼切り落とされたとか、身体の一部が武器になって国宝になったとか―――――》
「ナニソレ…………」
《お、お願いです!アタシを使い魔にしてくださいっ!!!》
「じゃから嫌じゃて」
《そ、そんなぁ〜〜〜》
先程の威厳はどこへ行ったのか。ドラゴンは子供がダダを捏ねるのだ。心底嫌そうにその駄ドラゴンを見下ろし、死んだ目で今にも帰ろうとする狐陰陽師。
だが、駄ドラゴンは何か思い出したかの様にニタリと笑うのだ。
《そう言えば、目立ちたくないとか…………?》
「む?」
《なら――――――アタシ、貴殿の使い魔になりたいと叫びながらこの辺りを暴れ――――――》
「よし、殺そう。うん殺そう、はい今殺そう」
《――――るとか、どんだけ自分勝手なんですかねぇ?あ、しませんよ?だから殺気抑えてくせません?》
もう駄ドラゴンは、ドラゴン(笑)であった。
威厳もクソもない。
「ならは去れ。いい加減にせんと――――――」
《わ、わかりましたよぅっ!もぅっ!》
流石に殺気が更に膨れ上がった事に不味いと感じたドラゴン(笑)はそそくさと再び地響きを立てて地中へ去ってしまった。
「……………はぁ。なんじゃったんじゃ、あの駄ドラゴンはっと?」
場が静まり返るのだが、狐耳は反応する。
遠くではあるが、何かが近付いてくる震音だ。空と陸から、数はかなりのものである。
「にしても遅いの。まあよい、我が宿主が住まう国の危機は去った。わしはわしでさっさとここから去るとするかのう」
狐獣人は袖から護符を一枚取り出すと、それを目の前の地面に投げるのだ。
ふわり、と護符は地面に触れると蒼い結界が出現する。その結界内に入った狐陰陽師は慌てる素振りもない。ただゆったりと、マイペースにだ。
しかし、狐陰陽師は結界に入り此処から立ち去る前にふと思った。辺りに飛び散る血だらけの大地に。
「……………あ、後始末――――――ま、よいか。どうでもよいし」
そうして狐陰陽師は結界と共に去った。
それから5分後だ。
「こ……………これはッ!!!」
戦車や軍用ヘリコプターなど陸空から戦争にでも赴く程の戦力が集結していた。が、彼等が戦う事は無かった。
何故なら――――――。
「間違いないのかッ、ここに【ナル・イムル】が現れたとッ!!!」
【ナル・イムル】。
別名【白銀の蛇龍】。
神話や伝承で語られるドラゴンの一種であり、分類としては蛇がドラゴンに到達した存在と記されている。神話や伝承でしか語られないのだが、太古の人々は【ナル・イムル】を酷く恐ていた為に王族や貴族、国民達の中でも“恐ろしい話”として語り継がれていた。特に王族や貴族はこの【ナル・イムル】の存在は代々語り継がれてきた為に、神話・伝承・お伽噺の様な作り物ではないという認識はあった。
かつて、既に滅亡した欲に塗れつつも最強とも称される大国の国王がその【ナル・イムル】の美しい白銀の鱗を我が物にしようと討伐に乗り出したのだが、【ナル・イムル】の逆鱗に触れてその大国を滅ぼしたのだ。その後、その大国滅亡後は北西南東の四つに分かれた。その東こそが、今この場にいる軍が所属する国である。
「間違い、ありません。この大量の血痕に混じって、この――――――白銀の鋭い鱗が」
「【ナル・イムル】の鱗は、酷く鋭くも綺麗な宝石の如き輝きがあったとされるが…………………間違いはない、のか。なら、この血は?何故、【ナル・イムル】の鱗が散らばっている…………?」
「他のモンスターとの争いで、負けた……とか」
「巫山戯るな…………と、言いたいが――――――どう見てもこの血液と鱗から見るに、そうとしか考えられんな。しかし、この血液は【ナル・イムル】が他のモンスターのものとも可能性は捨てられん。採取し、直ぐに解析班に回せッ!!!」
既に戦闘の跡に、何十人もの軍人が鱗や血液の採取以外に手掛かりとなりそうなものを採取していく。他の者達は【ナル・イムル】が近くに居ないかの探索を陸と空を行うのたが、専用の機器なども探知に引っ掛かることはなかった。
軍人の統括をしている中年の男性は、そこから【ナル・イムル】が去ったのだろう大地の大穴を眺めながら染み染みと呟く。その大穴は戦車一台は優に通れるだろうが自殺行為だ。
「【ナル・イムル】の脅威は去った訳ではない。地中からどの様に現れるか……………至急伝令を。【ナル・イムル】の襲撃に何時でも備えよ、と。いや、他に脅威モンスターも現れるやもしれん。厳重に警戒せよ」
しかし、この奇妙な大事件から数ヶ月経つが【ナル・イムル】は現れることはなかった。【ナル・イムル】の襲撃の予兆とも呼ばれる地震も一つなくだ。加えてそれ以外のモンスターの襲撃もない。
その数ヶ月は国内で【ナル・イムル】の襲撃による緊張感で警備などを強化されてはいたものの無意味に終わる。それはそれで良かったのだろうが――――――――彼等は知らない。
もう既に【ナル・イムル】は国内に潜入されていたことを。