世界の中心になりたいのはいいけれど、あなたに万人受けは無理でしてよ
争いごとは~の続編If 断罪イベント
ゲーム主人公ちゃんは一年生
私より一つ年上の元婚約者様の卒業プロム。婚約者交代で私の婚約者となった第三王子は一つ年下の一年生なのですけれど、兄の勇姿が見たいとのことで、パートナーとして同行することになった。元婚約者様と違って、私を大切に考えてくださっている方の珍しい我儘なので、聞いてもいいかな、と。
今期のトレンドはさりげないおそろいアクセサリーなので私の髪飾りの花と彼の胸のコサージュは同デザインのもの。まあトレンドを作るのは私のように王家に関わる身分の高い女性の役目なのだけど。義姉にあたる第一王子妃の方がファッションリーダーとしては強いけれど、王妃様もそうだし、未婚の少女に限れば私が一番。だからファッションには気が抜けない。変なものが流行ってはいけないし。
だから、こういうのって本当に迷惑なのよね。
「アンジュール嬢、あなたはこのプシュケ嬢に数々の嫌がらせを行った。それは断罪されて然るべきだ」
「兄上!!」
「ええと…プシュケ嬢、とはどなたかしら。私、面識のない方だと思うのですけれど…」
口では言ってみたが、まあ多分ゲーム主人公ちゃんだろう。冤罪だ。そもそも関係ない相手に使う時間も労力もない。
「それに私には見知らぬ方に嫌がらせなどする理由はございません。私の仕事ではありませんもの」
「何を言う。私の寵愛を受けているプシュケを妬んだのだろう。冷血女め」
こいつ脳味噌お花畑か?
思わず失笑しそうになったので、扇子で誤魔化す。
「イグニット様は何か勘違いしていらっしゃるようですが…私の婚約者はこちらのヴィルヘルム様ですわ。何故イグニット様の想い人を妬む必要などございましょう。ヴィルヘルム様はきちんと私を大切にしてくださっているといいますのに」
ね、と彼に微笑してみせる。いや、自分で思ってるほど表情は動いていないかもしれないが、パフォーマンスとして。
「ええ。彼女は私の婚約者です。あなたのものではない。…最後の機会に会って話したいことがあるというからお連れしたというのに、アンジュール様にこのような無礼、兄上といえど見過ごせません」
「なっ…」
「国王様からもう半年は前にお話しがあったはずではございませんこと?婚約者のある身で他の女を口説くなどという不貞、許されると思いまして?そのような浮気な方はこちらから願い下げです」
直系は途絶えたら困るかもしれないが、傍系が増えすぎるのはトラブルの元なのだ。ただの貴族ならまだしも、王族ではアウト。お家騒動になったら困るし。
「兄上がその女性を口説いていることが学園内で広まった時点で、グランツィア公爵から婚約取り消しの打診があり、私が父上に代わりを立候補したのです。以前から、彼女は兄上の婚約者など役不足だと思っていましたから」
それはちょっと初耳なんだが。王様から打診したんじゃなくて立候補だったの?いや、本人納得済みとは聞いてたけど。そして意外と辛口だな。第二王子の事慕ってるのかと思ってた。
「おっ…わ、私の婚約者は」
「現在は空席ですね。そちらの令嬢にでも好きにプロポーズなされば良いのでは?伯爵以下の方に求婚するのであれば、兄上は臣籍に降りることになりますが」
たしか主人公ちゃんは男爵家だっけ?なので、その場合王族ではなくなるわけだ。まあ、あとは当人たちの問題なので私の知ったことではないが。
「行きましょう、アンジュール様。これ以上あの方の話に聞く価値はありません」
「あら、それではエスコートをお願いいただけまして?ヴィルヘルム様」
「当然です」
プロム会場から離れ、中庭の東屋に来たところで、彼は私に頭を下げた。
「申し訳ありません、アンジュール様。兄上があれほど愚かだとは思わず…てっきり、あなたと何の問題もなく顔を合わせられる最後の機会に、さりげなく謝罪をされるのだと思い込んでいたのです」
「顔を上げてくださいまし、ヴィルヘルム様。あなたの非ではございませんわ。このようなスキャンダル、嬉々として起こそうとする方が怪訝しいのです」
普通に考えて、どちらにもメリットがない。公爵令嬢を貶めるなど、公爵家に喧嘩を売るようなものだし、仮に本当に嫌がらせがあっても内密の処分が当然だ。そのような陰湿な足の引っ張り合いは中級貴族の間では日常茶飯事だそうなので。公爵レベルの大貴族は同格の相手以外にはやらない。やらなくても勝手に他の貴族が手を回してくれるので。貴族も人間で政治やってる以上そんなもんである。
「それに、ヴィルヘルム様はこうしてあの場から連れ出してくださったではありませんか」
ダンスの一曲もできなかったのは残念だったが。開会の挨拶のタイミングでやらかしてくれやがったので。いや…そもそもプロム自体が台無しになったんじゃないかなあ、これ。
「アンジュール様…。…元々、ある程度したら連れ出すつもりだったんです。今回の主役は卒業する方たちですし。あまり私達で話題を奪ってしまってもよくないと思いまして。でも、一曲くらいは踊ってからにしたかった」
「まあ。私も同感ですわ」
「それでは…このような場で、音楽もないですが、私と踊っていただけますか?アンジー」
「ふふ。喜んで、ヴィル」
ダンスデビューが延期になってしまったのは残念だけれど、本番では私たちが主役になるから問題ない。私の卒業プロムか、それ以前の何かのパーティになるかはわからないけれど。二人きりでの予行演習も偶にはいいわね。