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私は番の好みじゃなかった  作者: せぶん
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幸せな日々




私とトール様は、お互いに一定の距離を保ちながらではあるけれど、毎日お茶をしたり食事を共にしたりして、一緒に過ごす時間を作った。

こうして一緒に過ごしていると、彼の悪いところとかいっぱい見えてくるのかなと思っていたが・・・全くそんなことはなかった。

トール様はずっと紳士的で、優しい微笑みを絶やすことなく、私に接してくれた。

好きな食べ物の話とか、他愛のないことをたくさん話したけれど、トール様のことを知るたびに私はどんどん彼のことが好きになった。

トール様は、私を立派なレディとして扱ってくれる。

私も粗相をしないように、彼と一緒にいないときはマナーの勉強をした。

私の所作が少しずつ改善されていく姿を見て、トール様は私の努力を褒めてくれた。

褒められたら、私も俄然やる気になって、結構忙しい日々を送るようになっていった。


私とトール様は手を握ることはあるけれど、抱擁とかキスはまだで、とても健全な関係だった。


それでも、少しずつ彼のことを知って、大切にしてくれていることを実感しているから、私はとても充実していたし、幸せだった。



そんな日々が一か月続き、私とトール様は今日も庭園を散歩していた。

トール様は竜騎士団長という役職でお忙しいはずなのに、こうして時間を作って私と過ごしてくれる。


「トール様、こうして時間を作ってくださるのはとても嬉しいのですが、無理はなさらないでくださいね。」


「私は休憩をしているだけだ。アヤコ殿と共に時間を過ごすことが、私にとっての心の休憩になるのだから。」


トール様は、さらりとこちらを動揺させる言葉を吐く。

今までどれだけの女の人が恋に落ちたんだろう。

そう思うくらい、何もかも魅力的な人だ。

男の人に優しく扱われることに戸惑いが多かったが、この一か月をトール様と過ごすうちに、とても心地よいものだと感じるようになった。




ただ、幸せなことばかりでもなかった。

トール様とお茶をするとき以外に、王妃様が何人かの竜人の娘を招いてお茶会をする席に、私も何度か呼ばれた。

トール様の番であることを羨まない人はいない。

王妃様は、城から出られない私がいろんな人と関わるように取り計らってくれているから完全に善意だろうけど、時々若い竜人の娘に向けられる嫉妬にも近い視線は、毎度疲れるし理不尽だと思うことが多かった。



今日も、王妃様に誘ってもらったので、お茶の席に向かう。

その途中で、大臣の娘である竜人が侍女を伴って歩いているところに出くわした。

おそらく私と同じ目的地なんだろう。

一応、挨拶をして、世間話をしようと話題を振ってみた。

しかし、相手からは素っ気ない態度しか返って来なかった。


「おしゃべりする暇がありましたら、トール様のためになることを少しされてはいかが?」


分かっている。

なんの力もないのに、いきなりお城に無償で保護されて、トール様に大切にしてもらって、見返りを求められないなんて、何か裏がありそうなほど恵まれた立場だ。

嫉妬や反感を買うのは分かっていた。

しかし、私なりにマナーやこの国や世界の歴史を学ぼうとしている。・・・と言い返したら喧嘩になってしまうから、「皆様とお話させていただいて、勉強になりますわ」と波風立てずに返しておく。

悲しきかな、日本人は争いを避ける傾向にある。

それが、この国の女の人から見てお高く留まっているように見えるのだろう。

少し眉間にしわを寄せて、目の前の令嬢は私を無視して歩き出した。






今日のお茶会も、王妃様がいらっしゃるところではとても穏やかな空気でお話をした。

そう、途中で王妃様が所要が出来たとかで退席したのだ。

お茶会はベランダで行われており、外はとても快い気候で、庭園のお花を楽しみながらみんなで談笑しいた。

私以外の人たちで。



「先日、トール様をお見掛けしたのですが、とても美しかったわ」

「あら、トール様はとても凛々しいのよ」

「とっても優しいわ。あれほどすべてを兼ね備えていながら、他者に手を差し伸べられるほど器も大きいですし」


この会話には入っていきたいんだけどなー。

でも、この後に決まって私への攻撃が始まるから、スルーするに限るのだ。

よって、私は一人景色を楽しみながら紅茶を飲む。


「やはり、“なぜ”番にこだわられるのか、ということが解せませんわ」

「番など、近くにいるだけでも心が落ち着きますのに。相性が良い相手は他にもいっぱいいるはずですわ」

「アヤコ様はこの城でずっと居候されるのですから、わざわざ結婚する必要はないはずですのに」


ねぇ?そう思いませんか?と令嬢がこちらに同意を求めてきたが、私はスルーする。

下手に返事をしたら、余計変な方向に話が広がるから、相手をしないのが一番なのだ。


「あ、そういえば・・・私、とびっきり面白いお話を兄から聞きましたの」

「あら、あなたのお兄様って・・・」

「確か、竜騎士団に所属されていましたわね」


その言葉に、ピクリと身体が反応した。

私は危ない目にあわないように、この城から出たことがない。

だから、この城の外で訓練をしている竜騎士団について、一切話を聞いたことがないのだ。

トール様は、むさ苦しい話ばかりで、何も面白いことがないから。と話してくれなかったんだけど・・・

もしかして、この退屈なお茶会でトール様の外でのお話が聞けるのかもしれない。

そう思って、思わず視線は外に留めたまま、耳だけ令嬢たちの会話に集中した。



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