タバコ屋
カランカラン
ピアニスがタバコ屋の扉を勢いよく開けると、軽快なベルの音が鳴り響いた。
「店主、いらっしゃいますか?」
アニスの透明化の魔法が解けたピアニスは薄暗い店の奥へと声をかける。しかし、一向に返事は無い。
気になったピアニスはカウンターの方へと駆け寄ると、そこには黒い煙に覆われ、床に倒れ伏しているタバコ屋の店主の姿があった。
「店主?!」
ぴあにすは慌てて駆け寄り声をかけるが返事はない。店主にまとわりついている黒い煙は絶えず店主の口へと入り込んでおり、時折咳き込んでいる。
「イクォス、なんとかなりませんの?」
「おそらくこれはブラック・デビルの副流煙だ!この煙を打ち消すしかない。ピアニス、主流煙だ!The Peaceの主流煙であればこの煙を打ち消せるはずだ!」
ピアニスは頷くと、すぐさまThe Peaceを咥え、煙草式魔法二式“主流煙”を発動させる。ピアニスからはき出された真っ白な絹のような白煙は、店主にまとわりついていた黒い煙を打ち消し、それと同時に店主も目を覚ました。
「店主、大丈夫ですか?」
「あ、ああ……助かったぜ嬢ちゃん。」
「一体何があったのですか?」
「突然真っ黒い格好をした奴がきたかと思ったら、最近妙に流行っている黒い煙草を置いてくれと頼まれてな。俺としては何となくいやな予感がしたんで断ったんだが……済まん、その先は覚えていない。」
ため息をつきながら言う店主。すると店の中を物色していたアニスが店主へと声をかけた。
「店主、在庫の品を確認してみてください。おそらく、全て入れ替えられています。ほら、これも。」
アニスが無造作に取った煙草の箱。箱にはアメリカン・スピリッツと書かれているが、箱を開けると中にはむせ返るような甘い香りのする真っ黒な煙草が入っていた。
「なんだと?!」
アニスに言われ、すぐさまカウンターの下に手を伸ばし、煙草の箱を幾つも取り出し、中身を検める店主。しかし、いくらは煙草の箱を開けども中から出てくるのは黒い煙草のみ。
「なんてこった……全部やられてやがる……」
「おそらく、ブラック・デビルの奴がここへ来たのだろう。タバコ屋を押さえてしまえば流通する煙草は全て奴の物となるからな。」
イクォスは冷静に言う。対してがっくりと肩を落とす店主。そんな店主の肩にぴあにすは手を置く。
「大丈夫ですわ。私がこの件を解決した暁には我が公爵家から資金援助を致します。どうか気を落とさないで。」
「ああ。ありがとよ。っと、そうだ。嬢ちゃんにやろうと思って造っていた物があるんだ。」
店主は何かを思い出したかのように店の奥から小さな白い筒状の物が幾つも入った袋を持ってきた。
「これは……煙草のフィルター?」
「ああ。俺が開発した新型のフィルター。“ジェットフィルター”だ。」