喫煙所を勝手に作るのは止めて欲しいですわ
「馬鹿な……これがあの“コマス”だと言うのか?!」
3人は商業都市コマスの入り口へと辿り着いたのだが、記憶にあるコマスとは大分かけ離れており、アニスは悲痛な声を上げた。
活気の溢れていたコマスの大通りはしんと静まりかえっており、建ち並ぶ商店は軒並み閉っている。そして街のあちこちではむせ返るような甘い香りのする煙が上がっており、煙の出所を見ると、数十人規模で小さな灰皿の周りであの黒い煙草を吸っていた。
「やはり奴はこの街をすでに掌握していたか。急いで奴を探さなくては。この街の住人全てを相手取るのはいささか骨が折れる。」
「分かりましたわ!では私に着いてきてください!この街の喫煙所の場所なら熟知しております。それを避けながら人目の着かないところへ行きましょう!私に思い当たる場所がございます!」
ピアニスはそう言って細い裏路地へと入っていく。イクォスとアニスもそれに従い、薄暗い路地へと足を踏み入れた。
・・・・・
・・・
路地裏を進むピアニス一同。コマスの喫煙所の場所を熟知していたピアニスによってある程度は順調に進めていたのだが
「な!……なぜこんな所に喫煙所が……ここに新たな喫煙所ができたなんて話は……」
ピアニスの目の前には新品の灰皿に群がる喫煙者の群れが。
「おそらく新たに新設された物なんだろう。奴らの思考は煙草を吸いたいという欲求で満たされている。だが深層心理では喫煙所がないと煙草は吸えないという認識が固定化されている。だから奴らは自分の家の近くに勝手に喫煙所を作り出す。」
「ええい何て面倒な!」
イクォスの言葉にピアニスはつい令嬢らしからぬ悪態をつく。
「仕方ない迂回しよう。」
アニスに言われ、ピアニスは新たなルートを構築し目的の場所へと向かう。だが、目的の場所を目の前にしてまた住民達の手によって作られた喫煙所が姿を現した。無論、30人ほどの喫煙者が煙草を吸っている。
「くっ……ここを行かねば辿り着かないというのに」
歯噛みするピアニス。そんなピアニスに対し、アニスは皇室もんした。
「ピアニス、目的の場所まで後どれくらいだ?」
「この喫煙所の先ですわ殿下。」
「なら僕に任せてくれ。」
アニスはそう言うと、ピアニスとイクォスの手を取った。
「二人とも、絶対僕の手を放さないように。」
そしてアニスは呪文を唱えたその瞬間
「え?」
ピアニスの目の前からアニスとイクォスが煙のように消えてしまった。当たりを見渡すピアニスだがやはり2人の姿はない。だが、手をつないでいる感覚はある。どういうことだろうと首をかしげていると、不意に耳元でアニスの声が聞こえてきた。
「大丈夫だピアニス。僕らはすぐ近くにいる。詳しく説明している暇はない。早く目的の場所へ連れていってくれ」
「わかりましたわ殿下。」
ピアニスは2人の手を放さないように目的の場所。裏路地にある行きつけのタバコ屋へと駆けだした。