灰皿がないときはポイ捨てすれば良いじゃない
「な、何?!!」
突如として発火した自分の脚を見て、慌てて風魔法を解除し、足をばたつかせて消火を試みるヴィンド。その様子を見てピアニスは口元を隠しながらクスクスと笑っている。
「あらあら、タップダンスがお上手ですわねヴィンド様。」
「くっ……黙れ!」
ピアニスの嫌みが勘に障ったのか、風魔法を使い、一気に火を消すヴィンド。だが、彼の靴の大半は炭となっている上に、ズボンも半分ほど燃えてしまっており、貴族とは思えないほどかなりみすぼらしい姿となっている。
「ふふふ……いかがです?ポイ捨てされた煙草の火力は。」
一度付いた煙草の火というものは中々消えにくく、火が付いたままポイ捨てされた煙草の火種が思わぬ火事に繋がると言ったことは珍しくはない。
煙草式魔法三式“ポイ捨て”とは、ピアニスの手から離れた煙草が、ピアニスの任意で発火するという地雷魔法である。つまり、先程ヴィンドがピアニスの煙草を切り刻み、踏みつけた際に靴底に多少付着していた煙草の一部が発火したのだ。
ましてや今現在、ヴィンドの手によってピアニスの手から離れた煙草の欠片が闘技場に散乱しており、まさに闘技場内は地雷原と化したのである。
ボンッボンッ
ヴィンドの周りに落ちている煙草の欠片が次々と発火する。
「なぁっ…くっ!小癪なぁ!!」
風魔法で辺りに散らばっていた煙草の欠片を吹き飛ばし、ヴィンドは一気に加速。再び煙草を咥えているピアニスに仕掛ける。するとピアニスは咥えていた煙草を左手に持ち、まるでレイピアのように構えた。
「うおおおおお!!!」
「煙草色魔法一式…“根性焼き”!!」
2人が交差する。そして
カランッ
ピアニスの根性焼きによって溶断されたヴィンドの剣先の落ちる音が闘技場に木霊した。
「……」
「…俺の…敗北だ。」
ピアニスの勝利に観客達は大いに沸き立った。
・・・・・
・・・
完全無欠の貴族令嬢として知られるセブンス・ピアニスが、煙草を使った魔法を使用し、暴風騎士の家として知られるシュトゥルム家の子息、ヴィンドを破ったという事実は学園だけではなくセレスティン帝国の王室にまで瞬く間に伝わった。
「ふむ……よもやあの厳格なマイルドの娘が煙草を用いた魔法を使用するとは。あの品行方正な娘が……のう?」
セレスティン帝国の現皇帝。エヴァン・セレスティンが学園からの報告書に目を通しながらつぶやく。
「お前は見ていてどう思った?アニスよ。」
エヴァン皇帝は目の前に座る実の息子、アニスに問う。
「父上。私が視た限り、彼女の煙草魔法なるものは煙草を触媒とした、5属性以外の属性を持つ魔法かと思われます。」
「フム……まあ5属性以外の属性魔法を使用する者は過去を鑑みても珍しくはあるが前例がないわけでもない。だが……」
「父上、おっしゃりたいことは理解しています。過去を顧みても、人工物を利用した属性魔法は過去に存在しなかった。ということでしょう?」
5属性以外に、潜在的な能力によって5属性以外の魔法を使用する者は過去幾人も存在した。だが、それは光や闇。星や大地と言った自然にあるもののみである。
煙草といった人工物の属性魔法を使用したという経歴は過去、誰一人として存在していないのである。
「まあよい。しばしの間学園ではお前が様子を見ておけ。何か変わったことがあればすぐに儂に伝えるよう。頼むぞ。」
「御意。」
そう言ってアニスは執務室から出て行った。
「そう言えば、何故貴族令嬢が煙草を吸うのは御法度であるという暗黙の了解が、我が国では広まったのであろうな?」
1人執務室でつぶやくエヴァン皇帝。そのつぶやきを聞く者は誰もいなかった。
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