真実
突如として目の前に現れたニッコ・レートの姿にピアニスは固まる。だがニッコ・レートはピアニスの存在を認知していないのか、その目は遙か遠くを見据えていた。不思議に思っているとニッコ・レートは静かに語り出した。
『これは我が記憶。この魔法が発動したと言うことはブラック・デビルが復活し、奴を打ち倒す力を持つ者が現れたと言うことだろう。』
その言葉を聞いてピアニスは目の前にいるニッコ・レートを解析すると、確かに目の前にいる彼に実体はなく、ただの虚像であることが分かった。
『ここに辿り着いた者であれば500年前の真実も。イクォスからの信頼も手に入れているのであろう。あれは最強の自律式加熱式煙草だ。不埒な輩であればここへ辿り着く事はできまい。』
確かにニッコ・レートの言うとおりイクォスは驚異的な強さを持っていた。ここへ辿り着くならば少なくともピアニスレベルの力を持っていなければ辿り着けないだろう。そもそも、1匹で国を滅ぼせるレベルの魔物が闊歩しているこの東の森の中心部にあるこの小さな洞窟にわざわざ来るような命知らずもいないだろう。
『さて、前置きはこのくらいにしておこう。これから我が託すのは彼の悪魔を倒すための武器だ。』
すると、再び魔方陣の周りにあった魔方陣が輝き初め、魔方陣から次々と金色の何かが飛び出していく。
「まさかあれは……!!」
よく見ると、それは幾度も見たことのあるオリーブの枝を咥えた金色に輝く鳩であった。そう、ピアニスがいつも吸っている煙草、ピースのエンブレムだ。そして金色の鳩たちはピアニスの周りに着地すると、光を放ち、一つの紺色の箱へと姿を変えた。
「これは……」
『この煙草はThe peace 真なる煙草式魔法を使える者であれば使いこなせるであろう。儂が創り出した最高の煙草だ。』
健康至上主義者であり、それが高じて煙草を滅ぼそうとしたニッコ・レートが創り出した煙草?一体どういうことなのかピアニスは混乱する。それを見越してかニッコ・レートは静かに語り始めた。
『イクォスの話を聞いている物であれば混乱するのも無理はない。我は自身の、そして人々の健康を考え煙草を滅ぼそうとした。だがそれは間違いであると、皮肉にもあの悪魔を復活させたときに気がついたのだ。煙草という嗜好品がなくなれば、煙草を愛した人々は悪魔に魂を売ってでも煙草を求めると言うことを。』
『だからこそ儂は責任を取らねばならなかった。悪魔を討ち取るため、魂を切り分け、切りわけた魂に悪魔に対抗するための煙草式魔法を与えたのもその一つ。だが君の魂は君のものだ。勝手な願いをして申し訳ないが、どうか平和のため、悪魔を討ち取ってくれ。』
そう言いながらニッコ・レートの虚像が消える中、ピアニスは呆然と立ちすくんでいた。