悪魔との契約
「……着いたぞ。」
イクォスに案内され、ピアニス一行は森の最奥にある小さな洞窟に辿り着いた。辺りは密林であるにもかかわらず、洞窟の周囲には植物が一切生えていない。明らかに人の手によって整備されている。その上、魔物よけの呪いまでされている。最早イクォスがここを拠点としていたことは確定であろう。
それを踏まえピアニスはイクォスに聞いた。
「それで、ここが貴方の拠点ですの?」
「俺と、そしてマスターの拠点だ。」
「マスター?」
「洞窟の奥にいる。案内しよう。」
そう言ってイクォスは洞窟の中へと入っていった。ピアニスはウェアウルフ達に洞窟の入り口で待つように伝えるとイクォスの後を追った。
・・・・・
・・・
洞窟の中はひんやりとした空気で満たされており、日の光が一切入ってこないにもかかわらず、洞窟内は明るく、また一定の温度を保つような魔法までかけられていた。
(この魔法の術式体系は見たことがありませんわ……やはりニッコ・レートがここに……)
洞窟にかけられた魔法を解析しながら目の前にいるイクォスを追いかけるピアニス。
そして、洞窟に入って10分ほどで洞窟の最奥に辿り着いた。
そしてピアニスは洞窟の最奥にいたソレをみて戦慄する。
「こ、これは……一体…」
そこには真っ黒な蠢くナニカがいた。
しかしよく見ると、時折黒いナニカの隙間から青白い人間の皮膚のような物や布のようなものが見える。
「……これは一体何なのですか?!」
叫ぶように問いかけるピアニスにイクォスは静かな声でこう答えた。
「これが俺のマスター。彼の大賢者と呼ばれた男、ニッコ・レートその人だ。」
イクォスのその答えにピアニスは声を失った。そんなピアニスに対しイクォスは
「今から昔話をしよう。一体何があったのか。」
イクォスはゆっくりと語り始めた。
・・・・・
・・・
事の始まりは500年前。マスター。ニッコ・レートは身体に害をなす煙草を此の世から排するために古の黒い悪魔を呼び出した。その悪魔の名は“ブラックデビル”。マスターはその悪魔と契約し、マスターは自分の魔力の半分を悪魔へ譲渡する代わりにこの世界にある煙草を排すると言う契約を交した。
そして数ヶ月もしないうちに世界各所の煙草畑は次々と謎の病気にかかり、煙草は絶滅の危機を迎えた。だが、あるときマスターはおかしな事に気がついた。煙草の生産は落ち込んでいるはずなのに市場に出回っている煙草の数には変動がなかったんだ。
そして、その市場に出回っていた煙草には不気味な魔力が込められており、その魔力は強力な依存症を生み出し、次第にその煙草の生産者に従う人形となってしまう。
そんな恐ろしい煙草を創り出していたのは何を隠そうマスターが呼び出した悪魔だった。