煙草を吸っているせいか最近多少のことでも息が上がってしまうのが悩みですわ
「……」
自らの持つ切断された煙草を呆然と眺めるピアニス。それを見てヴィンドはさらに追撃を咥える。ヴィンドは一歩たりとも動いていないのにピアニスの身体には浅手だが、切り傷らが増えていく。
「くっ……!」
ピアニスは煙草を投げ捨て、ヴィンドから距離を取ろうとする。だが
「残念だが、そう動くことは読んでいた!」
ヴィンドは風魔法を使い、ピアニスの動きを先回りしていたのだ。ピアニスに向けて剣を振り下ろすヴィンド。ピアニスはかろうじてポケットから取り出した煙草の箱で剣を受け止める。
「やはりな!貴様は魔法の腕は一流だが、実践慣れはしていない!不測の事態には精神の揺らぎが手に取るように見えるぞ!」
「ぐっ……」
自身が優勢となり、余裕の表情で言い放つヴィンド。対するピアニスは単純な腕力勝負で騎士になるための修行をしているヴィンドに勝てるはずもなく、押し切られる。
だが、ヴィンドとの距離は開いたことで多少の余裕が出来たピアニスは煙草の箱から煙草を取り出し吸おうとする。だが
スパッ
またもや見えない刃物で煙草が箱ごと全て切断された。
「っ!」
「見たところ。煙草が貴様の魔法行使をするための触媒なのだろう。悪いが封じさせて貰う。」
切断された煙草の箱を踏みつけるヴィンド。
「……なるほど。これが噂に聞いていたヴィンド家に伝わる秘術“風の刃” 噂以上のものですわね。」
代々暴風騎士として知られているヴィンド家には様々な風魔法の秘術が伝えられており、その一つが“風の刃”と呼ばれる秘術である。この魔法は極限まで研ぎ澄まされた風を相手へと放つ魔法で、視覚的には全く感知できない。まさに見えない刃である。
似たような風魔法として、ウィンドカッターなる魔法も存在しているが、ウィンドカッターは魔力の揺らぎが視覚的に捕らえることが出来る上に、切断性能も段違いなのである。
「さて……降参しろ。貴様に勝ち目はない。」
剣先をピアニスに向けるヴィンド。観客達もヴィンドの勝利を疑っていない。
「あら?私はまだこの通り戦えましてよ?」
だが、ピアニスだけは勝負を諦めてはいなかった。
「そうか。ならば完全なる決着を!」
ヴィンドは持っている剣に竜巻を纏わせた。当たれば刃のない剣と言えども大怪我することは間違いない。だがこれは完全なる決着を望んでいるピアニスに対するヴィンドの敬意でもあった。
ヴィンドは風魔法を使い、決着を付けるべくピアニスに向けて一気に加速する。
観客の誰もがこの後起きるであろう凄惨な決着を想像し目を瞑る。だが、ピアニスだけはしっかりと目を見開き、迫り来るヴィンドを見ていた。そして
「煙草式魔法四式“ポイ捨て”!!」
ピアニスが呪文を唱えた次の瞬間、ヴィンドの履いている靴から炎が立ち上った。