副流煙も使いようですわ。
風魔法を使用し、まるで疾風のようにピアニスへと迫るヴィンド。彼の持つ剣先はまっすぐ、ピアニスの首元へと向かっている。
対するピアニスはというと
「……フゥー…スゥー…フゥーー……」
目の前に迫るヴィンドを気にもせず、煙草をいつもよりも多く吸っている。これで6本目だ。
「フンっ!!!ゼア!!!」
ヴィンドが、ピアニスに向けて渾身の力で剣を振り下ろす。それに対してピアニスは落ち着きを持って躱した。さらにヴィンドはピアニスに向け追撃をする。それでも尚、ピアニスは煙草を吹かすのを止めない。
「おい貴様!どういうつもりだ!」
先程からヒラリヒラリとまるで蝶のように攻撃を躱し、反撃するチャンスがあるのにもかかわらず、一切攻撃しようとしてこないピアニスに対し、ヴィンドは自分が侮られていると思ったのだろうか、ピアニスに対して怒鳴りつけるヴィンド。
それに対してピアニスは
「あら……もう私は反撃しておりますわよ?」
と、美しい笑みを浮かべている。
「戯れ言を……っっ?!」
再びピアニスに向け剣を構え直そうとしたところで、ヴィンドの身体に異変が起きた。息苦しいのだ。肺が締め付けられるような圧迫感にヴィンドは激しく咳き込む。
辺りを見渡すと、先程まではピアニスに剣を振り下ろすことに夢中で気がつかなかったが、濛濛と白い煙がまるで霧のように2人を覆っていたのである。
「こ、これは……」
「いかがです?私の煙草式魔法三式“副流煙”のお味は。」
クスクスと笑うピアニス。
煙草式魔法三式“副流煙”とは
有毒な物質を多く含む煙草の副流煙を、魔法によってさらに毒素を凝縮し、敵の周りを覆い尽くし、常人ならば3分その煙の中にいれば昏倒してしまうと言う悪魔のような攻撃魔法である。
「ゴッホガッハ……!!」
「おや、もうギブアップですの?」
膝をつき、激しく咳き込みヴィンドを余裕の笑みで見下ろすピアニス。
「では、終わりにさせていただきますわ。」
そう言ってピアニスがヴィンドの首元に手刀を振り下ろそうとした瞬間
ゴウッ!
突如として激しい風が闘技場全体を包み込んだ。土埃が舞い上がり、観客席からは悲鳴が上がっている。暴風の中心にいるのは代々暴風の騎士として王家に仕えてきたシュトゥルム家の子息、ヴィンド・シュトゥルムである。
そんな暴風の中でピアニスは多少驚いた表情をしながらも平然と立っている。
「悪いが……ハァ…俺も騎士の端くれだ。このままでは終わらん!!」
剣を杖のようにして何とか立ち上がるヴィンド。副流煙の効果が強く出ているのか、彼はとても息苦しそうにしている。だが、そんな状態にもかかわらず、闘技場に満ちていたピアニスの副流煙を風魔法を行使することにより吹き飛ばした。
「ふふ……流石は暴風騎士として名高いシュトゥルム家のヴィンド様。素晴らしい風魔法をお持ちで。」
余裕の笑みでヴィンドを見るピアニス。対してヴィンドは剣を構えるのを止め、ダランと剣を下げる。構えを解いたヴィンドの姿に不思議そうに首をかしげるピアニス。
次の瞬間
スパッ
ピアニスの咥えていた煙草がまるで刃物で切られたかのように切断された。