ヤニカスを怒らせたこと、後悔させて差し上げますわ
三日後にクリーニア行きが決まったピアニスは早急に準備を始めた。
大量の紅茶、そして便箋を大量に買い込んだ。そして、クリーニアに連れて行ける侍女は2名とのことだったので、手先の器用な者2名の選抜。その最中、
「すまない。まさかこんなことになるなんて。」
アニスがピアニスに謝罪しに来た。まさかこのようなことになるとは思わなかったのだろう。まさかピアニスがクリーニアに連れて行かれてしまうとは。
おそらく、クリーニアでピアニスは通常の貴族として扱ってもらえないだろう。よくて軟禁。最悪……
悪い想像がアニスの脳内を駆け巡る。そんなアニスの思考を止めたのはピアニスだった。
「殿下、私は大丈夫です。今回のことを引き起こしたのは私。ならば責任を取るのも私。ですのでご心配なさらぬよう。」
「でも……」
「大丈夫です殿下。」
「………そうか、ならよかった。」
その後、和気藹々と話をする二人の様子を物陰から白い小さなネズミがじっと見ていた。
・・・・・
・・・
王城某所にて、マーラスと白いローブを着た魔物使いの男は密会をしていた。ピアニスをこの国から追い出すことが上手くいったからなのか、マーラスは酷く上機嫌である。
「それでぇ?あのヤニカスはどうしているのぉ?」
「私の使い魔からの情報によりますと、大量の紅茶、並びに便箋を大量に買い漁っておりました。」
「なぁにぃ?今度は紅茶に逃げようって言うのぉ?」
「いえ、私の予想だと紅茶缶の中に煙草を入れ、密輸しようとしているのではないかと。煙草も紅茶の葉も乾燥した葉であるため、かなり見た目が似ています。それに大量の便箋に手先の器用な侍女。彼女はクリーニアにて煙草の製造をもくろんでいるのかと。」
その報告を聞いたマーラスはにんまりと笑うと、魔物使いの男にこう命じた。
「そぉいうことぉ。じゃあ、入国の際の審査を厳しくするようにお父様に言っておいてぇ。」
「御意。」
・・・・・
・・・
そして出発当日。
「ピアニス。少しの辛抱だ。必ずお前をこの国に戻してみせる。」
「お父様、私は大丈夫です。後のことをお願いしますね。」
クリーニアへと旅立つピアニスの元に、アニス、そしてピアニスの父、マイルド・セブンスが見送りに来てくれていた。
「殿下、ではまた。」
「ああ。また。」
そして、アニスとの別れの挨拶を済ませたピアニスはすぐに馬車へとのり、クリーニアへと旅立っていった。
馬車が見えなくなったところでアニスは娘がクリーニアへと売り渡され、意気消沈しているマイルドに声を掛けた。
「セブンス侯爵、貴方の明日からの仕事の一覧だ。頼むぞ。」
マイルドへ書類を渡すアニス。そこにはマイルドが想像もしていなかった事が羅列されており、マイルドは目を見開く。
「こ、これは……」
「これから先……いや、一週間以内に片を付けると言っていた。早めに準備を頼むぞ。」
「し、しかし本当にそうなるとは……」
「いや、必ず起きる。これは皇帝からの命でもある。くれぐれも、悟られぬよう頼むぞ。」
「承りました。」
・・・・・
・・・
(さぁ、覚悟しておきなさい。私を怒らせるとどのようなことになるのか。その身、否その国を持って知りなさい。あのような矮小な国、私一人で滅ぼして見せますわ。そして……)
ピアニスは煙草に火を付けると凄絶に笑った。