煙草があればどんな嫌なことだって忘れられますわ
タバコ屋の中は相も変わらず喫煙道具や何やらで密集していた。
「御免くださいませ。」
「……ん?ああ、アンタか。」
ピアニスが一声掛けると、店の奥から店主が出てきた。
「この前はシガーケースを送ってくださり、どうもあ
りがとうございました。」
ぺこりと頭を下げるピアニス。本来貴族令嬢はこのように頭を下げることは目上の人物でも無い限りほとんど無い。ましてや公爵令嬢であるピアニスが頭を下げるとするならば、それこそ王太子であるアニスや皇帝であるエドヴァンなどといった王族ぐらいなもんである。
だが、公爵令嬢であるピアニスはそんな身分など気にすることもなく、感謝するときはきちんと頭を下げるべきだと考えているため、このようにタバコ屋の店主に頭を下げることになんの躊躇いもないのである。
「いいってことよ。それよりも、あんたと似た名前の煙草が出てたな。たしか、セブンスターとピアニッシモだったか?ピアニッシモはともかく、セブンスターはお前さん好みの味だったが……」
タバコ屋の店主はそれを知ってか知らずか、気にするなと行ったように手を振った後、ピアニスに新商品の煙草を勧める。
「ええ。存じていますわ。とりあえずセブンスターを5カートン。それとピアニッシモを1カートンくださる?」
「なんだ、嬢ちゃん知ってたのか。……まあ、貴族様なら当然か。」
何となくバツが悪そうに頭を掻きながらカウンターの下からピアニスに言われたとおり煙草を取り出す店主。
「ほらよ。今回は銀貨6枚だ。」
「分かりましたわ。」
そう言って懐から銀貨6枚を取り出し店主へと支払うピアニス。
「はい、毎度。」
「そう言えば、最近新しい煙草も吸ってみようと思っていまして、なにかあれば私に手紙で教えて欲しいのですが。」
「そのくらいだったら構わねえよ。最近じゃあピースの製造会社が新たなピースを造ってるって言う噂だ。」
「本当ですの?!出たときはいの一番に教えてくださいまし!」
「お、おう……」
ピアニスの勢いに若干引き気味になる店主。
「あら……失礼。」
自分のはしたなさに気がついたのか口を押さえ、居住まいを正すピアニス。それを見て店主は笑った。
「はっはっは!ホントに煙草が好きなんだな嬢ちゃん。分かった。ピースの新作が出た時や興味深い煙草が出たら教えよう。手紙の宛先は何処にすれば良いんだ?」
「セレスティン学園 セブンス・ピアニス宛てと書いてくれれば十分かと。」
「わかった。ほんじゃ、これからもご贔屓に。」
「ええ。では、ごきげんよう」
ピアニスは笑顔を振りまきながらタバコ屋を後にした。