いつ、どんなとき、例え決闘前でも煙草は美味しいものですわ
決闘
それは古来よりセレスティン帝国の貴族達が互いに相容れないものがある場合に行なわれる、極めて原始的克つ、崇高なもので、決闘を行なう貴族は互いの威信を賭けて戦うのである。
決闘の方法は、己の持ちうる剣技、魔法、全てを用いて戦い、最後に立っていた者を勝者とする、極めてシンプルなものである。
そして現在、至って平和な国であるセレスティン帝国においては決闘などと言う血なまぐさい者はほとんど行なわれていないが、希にセレスティン貴族学園では学生同士の小競り合いなどで決闘が行なわれることが多く、決闘に冠する申請を出せば、模擬戦という形で決闘を行なうことが可能となっている。
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ワアアアア!!!
セレスティン貴族学園の保有する1万人は入ることの出来る闘技場は、この日沸きに沸いていた。
何でも久方ぶりに決闘が行なわれるらしいが、その対戦カードが見物だ。
片や王家直属の選ばれし5人の騎士うちの1人、代々暴風の申し子として知られるシュトゥルム家の子息、ヴィンド・シュトゥルム。風魔法と卓越した剣技を組み合わせ、同年齢の中では最強とまで噂されるほどの実力の持ち主である。将来はアニス皇太子に仕えることが約束されている、まさにエリート中のエリート。
片やセレスティン貴族学園が開校して以来の天才。現セレスティン皇帝の右腕として知られるマイルド・セブンス公爵の一人娘、ピアニス・セブンス。その容姿は男ならば5人中5人が振り返るほどの美貌であり、年度ごとに行なわれる試験では座学、実技を含めて学年1位の座を独占し続け、社交マナーから魔法まで、どれも完璧にこなす公爵家令嬢である。
このような面白い対戦カードを見ないという選択肢はないと、学園中の生徒達が2人の決闘を見にきたのである。
「お嬢様、ご意思は変わらないのですか?今からでも辞退した方が……」
決闘を前にしても落ち着きながら煙草を吸うピアニスに、学園での世話役として付いてきていたメビウスが心配そうに言う。だが、そんな老執事の心配をピアニスはにこやかに笑うことによって払拭する。
「ありがとうメビウス。心配してくださって。でも、私なら大丈夫ですわ。」
そう言って立ち上がり、ピアニスは制服のポケットの中を確認する。ポケットの中にはピアニスお気に入りの煙草、ピースが5箱、ちゃんと中身も入っている。
「ではメビウス、いってきますわ。」
「ご武運をお祈り申し上げております。」
闘技場へ消えていくピアニスに老執事は恭しく礼をした。
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「逃げずによく来たな。さすがは公爵家令嬢。そこらの礼儀はわきまえているようだな。」
どこか見下したような言い方で言うヴィンド。一方ピアニスは煙草を1本咥え、煙草に火を付け煙を吐く。公爵家令嬢が闘技場で煙草を吸う。その異常な事態に闘技場にいた観客達はざわつく。しかし、そういったことを気にしていないかのように、ピアニスは冷たい笑顔で応える。
「お褒めいただき光栄ですわ。私もセブンス家の者。決闘を申し込まれたとあれば黙っているというわけにはいかなくてよ。」
ピアニスの煙草を吸う、その余裕そうな態度にヴィンドは一瞬眉をひそめる。だが、すぐに頭を振り、腰に差していた剣を抜く。一応決闘様に刃が付いていない模造刀である。だが、ヴィンドほどの使い手が使用すれば骨くらいは簡単に折れてしまう。それを察してか、客席で見ているアニスは不安そうな顔でピアニスを見ている。
一方ピアニスはもう1本目の煙草を吸い終わり、2本目の煙草に火を付けようとしていた。それを見て思い切り顔をしかめたヴィンドは剣を構えた。
「では、貴様の曲がった根性をたたき直す!ヴィンド・シュトゥルム参る!!」
ヴィンドが風魔法を使用し、疾風の如くピアニスとの距離を詰めた。