ヤニカスにとってタバコが吸えないのは死にも等しい拷問ですわ
「ふぅーー……さすがに疲れましたわ。」
ピアニスが寮の自室で溜息と煙草の煙を同時に吐き出しながら言う。傍に着いている雌のウェアウルフはそんなピアニスに灰皿とミルクティーを持ってくる。
「ああ、ありがとう。」
ピアニスはもらったミルクティーを啜りつつ、煙草の灰を灰皿へと落とす。
ピアニスがここまで疲れているのには理由がある。
本日の昼休み、アニスに捕まったピアニスは、午後よりアニスと共に王城へと出向き、現在捕虜となっているクリーニアとベイパーの兵士たちの取調べの報告書作成の手伝いをさせられた。
この数日の間にアニスは寝る間も惜しんで両軍の兵士の半数の取り調べを完了させていたが、限界を迎え、学園へと赴き、この原因をつくりあげたピアニスを無理矢理王城へと連れていき、取調べの手伝いをさせたのだ。
「ふぅー……地獄でしたわ」
王城へと連れて行かれたピアニスに待ち受けていたのは地獄だった。
・・・・・
・・・
「ピアニス!タバコ吸う暇あるならこっち手伝って!」
「ピアニス!ここは重要な書類あるから火気厳禁!!!」
「ピアニス!!!」
・・・・・
・・・
王城に拘束されること約8時間。ピアニスがその間吸えたタバコの本数はたったの三本。ニコチン中毒者でありヤニカスであるピアニスにとってこの仕打ちはどんな拷問よりも耐え難い苦痛の時間であった。
「はぁ……明日も行かなければならないなんて……憂鬱ですわ…………」
煙草の火を揉み消しながら、本日最大級の溜息をつくピアニス。
無論本日一日で取り調べが終わる訳もなく、ピアニスは明日も王城へと出向くこととなっていたのである。
「まったく……なぜ私がこのようなことを……」
ブツブツ文句を言いながら煙草に火をつけるピアニス。
灰皿は吸殻でいっぱいになっていた。
・・・・・
・・・
〜セレスティン帝国王城某所〜
「どうなっているのぉ?!!なんで計画が失敗しているのよぉ!!!」
「そ、それが、予想外の乱入者がおりまして……」
「言い訳なら結構よぉ!!」
セレスティン帝国第3側妃であるマーラスが、白いローブを着た男に怒鳴り散らしていた。
「というかあなたのウェアウルフはどぉしたのよお!?」
「そ、それが……その乱入者に奪われておりまして……」
「馬鹿じゃないのぉ!!??」
白いローブを着た男。商業都市コマスにて、ウェアウルフを使役し、ピアニスを襲った魔物使いの男は冷や汗を流しながら答える。
「で?その乱入者って誰なのぉ?あのバカ皇帝今回のことに箝口令敷いたせいで私にもわからいのよぉ?」
「そ、それが……セブンス家の令嬢でして……彼女だった1人にベイパー国軍約2000人が全滅させられました。しかも、全員生け捕りです。」
「は?……セブンス家令嬢ってあのヤニカス令嬢???」
「は、はい……」
「ふ……ふふ……アハハハハハハ!!」
高らかに笑うマーラス。そして
ベギィッ
「あんの小娘ぇ!!!」
怒りのあまり持っていた扇子を握り潰した。