実に……残念ですわ
悪夢だ。
これが現実であるはずがない。
ベイパー軍の総大将は目の前で繰り広げられる惨状に戦慄する。
「ゲホゲホ……い、息が…」
「コヒュー……コヒュー……」
多くの兵士達は呼吸困難に襲われ立ち上がることができず
「ば、馬鹿な!魔鉄で鍛えた剣が折られるなんて…!!」
「よ、鎧が溶かされるなんて!」
なんとか戦っている兵士達もその武装を悉く破壊され、戦意を失っている。
このような地獄を創り出しているのは
「煙草式魔法四式“ポイ捨て”!」
「うわああああ!!」
セレスティン帝国セブンス公爵家の一人娘。容姿端麗 頭脳明晰の完璧な貴族令嬢としてセレスティン帝国では有名なセブンス・ピアニスたった一人であった。
「怯むな!相手は一人だ!囲い込め!」
総大将が指示するが、事前にピアニスがベイパー軍に向けて噴射した“副流煙”や水魔法によって擬似的に降らせた雨のせいで兵士達の動きは重い。
その隙をピアニスは見逃さず、煙草魔法を用いて各個撃破していく。
「むう……まさか単騎でこれほどの実力を持つとは…!」
目の前でピアニスが幾人もの屈強な兵士達を撃破していくのを見て総大将は歯噛みする。
そうしている間にも兵士は次々と倒されていき、そして
「さて、残るは貴方だけのようですわね。」
新しい煙草に火を付けながら総大将へと歩み寄るピアニス。
その後には地に倒れ伏した兵士達が山ほどいる。
「……一体何が目的だ。」
「知れたこと。我が国の煙草畑を燃やそうとした者達がいたので自衛権を行使したまでですわ。」
平然と答えるピアニス。だが、その人身には確かに怒りの感情が浮かび上がっている。
「…一体何の事だ?我らは我が国に徒なすクリーニアに鉄槌を下さんと…」
「誤魔化さなくても結構。昨夜煙草畑に爆弾を仕掛けていた輩を始末しましたが、仕掛けていた爆弾を解析したところ、起爆の権限を握っていたのは貴方でしたわ。」
そう、あの大量の爆弾を起爆する権限を持っていたのはベイパー軍の総大将だったのだ。
「……」
「目的を話しさえすればこの場は見逃しますわ。」
ピアニスの問いかけに総大将は少しだけ考え込むと腰に差していた剣を抜いた。そして
「総員撤退せよ!!!殿はウィルノス・ガーレイが引き受けた!!!!」
と、叫んだ。すると、総大将の周りにいた兵士達は次々に総大将に別れの言葉を告げつつ、走り去っていく。
それを見てピアニスは実に残念そうな顔をする。
「……惜しい。実に惜しいですわ。貴方ほどの戦士が。我が国の煙草畑に手を出さなければこのようなことにはなりませんでしたのに。」
「……我が剣は清浄なる世界のために。世界を汚す煙草と、その魔法使いには消えて貰う!」
ピアニスとベイパー軍総大将ウィルノス・ガーレスが激突した。