喧嘩の時間ですわ
ピアニスの目の前をベイパー国軍が進軍していく。ピアニスは気づかれないように茂みの中に身を隠す。
(……そろそろ頃合いですわね。ふふ、今回は天気も味方してくれているようで)
どんよりと曇った空を見上げるピアニス。ゴロゴロと雷の音が鳴っており、今にも雨が降り出しそうな様子を見てピアニスは嗤う
「では……」
ピアニスは煙草に火をつけた。
「煙草式魔法三式”副流煙”!」
有害物質を大量に含んだ煙があっという間にベイパー国軍を包み込む。
「なんだぁ?霧か?こんな急に…」
「まあこんな天気だからなぁ。雨降らないだけましだ。」
兵士たちは突然の視界不良に多少動揺したようだが、進軍を止める気配はない。
(よし…ここで変に勘繰られたりしたら後々面倒ですからね。では、次の作戦に移りましょう。)
ピアニスは人差し指を天に掲げる。
「”アクア・ウォーター”!」
ピアニスが呪文を唱えると、ピアニスの指先から勢いよく水が噴射する。その水は天高く上り、そして雨となって米パーの兵士たちに降り注いだ。
「くっ……降り出したか」
「くそう…装備が重くなって仕方ねぇ」
進軍中の雨に兵士たちの士気は徐々に下がっていく。進軍の速度も落ちて来たように見える。
ピアニスがそんな様子を眺めていると、首から下げていたペンダントが赤く輝いた。どうやら、ウェアウルフたちのほうも準備が完了したらしい。
「では参りましょう。作戦開始です。」
・・・・・
・・・
ベイパーの兵士たちは土砂降りの雨の中を進軍していた。この雨のせいで装備は水を吸って重くなり、進軍の速度は明らかに落ちている。そのうえ、先ほどから出てきた霧のせいで碌に視界は効かない。
「はぁ…はぁ……」
「ぜぇ…はぁ…」
これから見せかけとはいえ戦が始まるというのに兵士たちには疲れの色が見え始めている。
ベイパー国軍の総大将は焦っていた。
(……まさか天候に恵まれないとは。しかし、作戦を遂行しなければ帝国から怪しまれるのは必死。何としても作戦を……)
「ゲッホゲホ!」
息苦しさに襲われ、思わず咳き込む総大将
。
(くそっ先程から息苦しくて敵わん!一体……もしや……?)
何かに気がついたのか、総大将は意識を集中させる。そして
「全軍戦闘準備!!攻撃されている!!!」
一気に臨戦態勢へと入った。目の前に立ち込める霧、もといピアニスの副流煙に魔力が込められていることに気がついたのだ。
士気が下がっていた兵士たちも総大将の一声に、一気に気を引きしめる。
(まさか……クリーニアの魔物使いが言っていた煙草魔法使いかッッッ!!!)
「風よ!不浄なものを吹きとばせ!'バースト・ウィンド'!!」
軍隊を覆う煙を風魔法によって吹き飛ばす総大将。
そして、一気に煙が晴れると
「き、貴様は……!!」
「初めまして。私の名はセブンス・ピアニス。煙草畑を灰燼に帰そうとした愚か者に鉄槌を下す者ですわ。」
総大将の目の前に煙草を咥えたピアニスがいた。