エデンを荒らす輩に鉄槌を
煙草畑のすぐ近く、ベイパー国軍の野営地。およそ2000の兵士たちが隊列を組んでいる。遠目から見ても臨戦態勢であることが伺える。
「よいか、これより戦闘準備に入る!」
軍の総大将らしき男が兵士たちに向かって野太い声で言う。
「今回の戦は見せかけだ!我らの真なる敵はあそこにいる!!」
総大将が煙草畑の方角を指さす。
「クリーニアの兵達と戦う振りをしつつ、協力しあの悪魔の畑を焼き尽くすのだ!!!!」
「「「「「おおおおおおお!!!」」」」」
兵士達が各々手に持つ武器を掲げ雄叫びを上げる。
「行くぞ!!我らの清き世界のために!!!」
総大将が自身の馬に騎乗する。すると、軽装の兵士が総大将の元へとやってきた。
「伝令!クリーニア国軍、目視により確認!」
その報告を聞いた総大将は
「では全軍、進軍せよ!」
ベイパー国軍の進軍が始まった。兵士たちの士気は高い
だが、自信満々な演説をした総大将の内心は若干の暗雲が立ち込めていた。
作戦のために煙草畑に派遣した隠密部隊からの連絡が途絶えたからだ。
総大将は一向に隠密部隊が戻ってこないため別の部隊を派遣したところ、隠密部隊と思わしき血の跡と数体のウェアウルフを発見したとの報告を受けた。その時は一応の納得をしたが、総大将の中では何かが引っかかっていた。
(妙だ……ウェアウルフなんて魔物がこんな人里近くにいるのならば畑の住人も防壁を築くはず……どこからやってきた?)
思わず考え込みそうになる総大将。だが、すぐに頭を振り、考えを追い出す。
(否、今は作戦に集中だ。あの悪魔の畑を滅さなければ清浄な世界は訪れん。)
決意新たにし、将軍は進軍する。
・・・・・
・・・
「……来ましたわね。」
森の中の木の上からベイパー国軍が進軍する様子を眺めるピアニス。その口には缶ピースがセットされたシガレットホルダーが咥えられている。
そんなピアニスの元に一体のウェアウルフがやってきた。ウェアウルフのジェスチャーによると、どうやらクリーニアの軍もそろそろ到着するらしい。
「分かりましたわ。では、他の方々に作戦開始の旨を伝えてきてくださる?」
ウェアウルフは頷くと、まるで風のように走り去っていった。
「では……あの愚か者共に鉄槌を下しましょう」
理由は分からないが、爆弾の魔力を辿ったところベイパー国軍の誰かが戦争に関係の無いセレスティンの煙草畑を燃やそうとしていた。
いや、少数の隠密部隊を用意し爆弾をしかけていたのだ。恐らく国絡みでやっているのだろう。
「一体どのような目的があるのかは知りませんが、容赦はしませんわ。」
ピアニスは目の前で進軍するベイパー国軍を見て凄絶に笑った。
空は次第に曇り始めていた。