煙草の煙は有害物質の塊ですわ
「お嬢様、準備が整いました。しかし、本当に行かれるので?」
「ええ。私の見間違いでなければ戦争が起こると同時に煙草畑が壊滅してしまいます!」
ピアニスは就寝用のローブを急いで脱ぐと、活動しやすい服装、いつものようなドレスではなくパンツとジャケットを着用した姿である。
そして肩から提げているショルダーバッグの中にはありったけの金ピースと缶ピース、そしてシガレットホルダーの予備が綺麗に整理され入れられている。
「では私は先に行きます。メビウス、準備でき次第ウェアウルフ達の残りを私の所へとお送りなさい!」
「か、畏まりました!しかしお嬢様、どうやって行かれるおつもりで?」
メビウスの疑問は当然のものであった。現在は真夜中。こんな時間では馬車どころか人すらいない。歩いて行くにしてもここから煙草畑まではかなり遠く、その上ピアニス1人で活かせるにはかなり危険である。
「大丈夫ですわメビウス。」
ピアニスはそう言ってシガレットホルダーを2本咥えると、それぞれに缶ピースをセットし火を付ける。
「すぅううううう……」
「お、お嬢様、一体何を……?」
突然のピアニスの奇行にメビウスは驚く。無理もないだろう。
なんとピアニスは2本の煙草を同時に、そして一息で吸おうとしているのだから。
ボロッ
2本の煙草が全て灰になり、シガレットホルダーから崩れ落ちる。そしてピアニスは
「ふぅぅううううううう……」
一気に肺に貯めていた煙を吐き出した。
ピアニスの口から一気に放出された煙は風に流されることなく一カ所に固まる。それはまるで小さな雲のようであった。だが少々黄ばみがかった雲だが…
「ではメビウス、行って参りますわ。」
ピアニスはそう言って何の躊躇いもなく煙草の煙から創り出した雲に飛び乗る。するとその雲はまるで意思を持っているかのように浮き上がると、ピアニスを乗せて、煙草畑の方角へと一直線に飛んでいった。
その光景をメビウスは呆然と眺めていた。
・・・・・
・・・
「ふう……上手く行ってよかったですわ。」
煙草の煙で創り出した雲の上で汗を拭うピアニス。
この魔法はピアニスが新たに会得した煙草式魔法五式“紫煙”
タール値の高い煙草の煙を固め、簡易式の空飛ぶ乗り物“紫煙”を創り出すことのできる魔法である。
この魔法では大量の有害物質を含んだ煙草の煙でなければ成功しないため、現時点では缶ピースを2本以上吸ったときのみに発動することのできる煙草式魔法である。
「……しかしこの魔法は身体への負担が大きすぎますわ…ヤニクラがまだ収まりません…」
ピアニスは蒼い顔で独りごちる。
煙草を吸った際、人体では血管が収縮し血液量が急激に低下する。これによりクラリとめまいを起こすことがある。これがヤニクラである。
ピアニスは普段煙草を恒常的に吸っているため、ヤニクラに対する耐性はかなり高いのだが、今回フィルターの無い缶ピースを2本同時に吸った事により、珍しくヤニクラを起こしているのである。
「向こうに着く頃には治るでしょうが……私鍛え直さねばならないようですわね。」
決意を新たにしたピアニスを乗せ、紫煙は星のように夜空を駆けていく。