エデンを戦火にさらすわけにはいきませんわ
「ど、どうして煙草が違法薬物に……」
珍しくピアニスが狼狽えている。
「クリーニアの現国王は潔癖なことで知られている。これは君にでも分かるね。」
「はい。清浄な空気のみを吸いたいからと、常に浄化魔法を掛けたマスクを使用しているときいたことがありますわ。」
そのほかにもクリーニアの現国王は1日に何度も手を洗う。人が触った物はキレイに洗わない限り触らない。と言った逸話で知られ、病的なほど潔癖な人物である。
「彼は自分の住むクリーニアの空気が汚染されることを嫌い、表向きには薬物依存から国民を守るためと銘打って、煙草や葉巻などの煙の出る嗜好品を軒並み禁じたんだ。」
「そうでしたの…」
この瞬間、ピアニスの“死んでも行きたくない国ランキング”ナンバーワンの座にクリーニアが輝いた。
「で、ここでちょっと問題が起きた。主に君にとって由々しき問題が」
「私にとって……でございますか?」
「ああ。この地図を見て欲しい。」
そう言ってアニスはポケットからセレスティン帝国周辺の地図を取り出した。
「どちらも我が国の隣国だから我が国の国境線近くで戦闘が行なわれる可能性がある。で、ベイパーに在住している我が国の大使によると……ここで戦闘が行なわれる可能性があるらしい」
「!!ここは……」
「ああ。我が国唯一にして最大の煙草畑だ。」
・・・・・
・・・
ベイパー王国王室。
ベイパー国王が、遠距離にいる相手とも通信できる魔法水晶で何者かと小声で話している。
「……了解した。こちらから上手く情報は流しておく。我が輩もアレを野放しにしたくないのでな。」
そう言ってニヤリと笑うと国王は通信を切断した。
・・・・・
・・・
クリーニア国
「ということだ。我が国の領土は汚さないために向こうの領土で戦うのだ。なに、作戦通りやれば問題は無い。」
王国の重鎮達の前で話すには重厚なマスクに真っ白なシミ一つ無い服を着たクリーニア国の現国王。
「よいか、アレは此の世に害をなす物だ。全て焼き尽くすのだ!」
「「「御意に」」」
国の重鎮達は国王に一斉に頭を下げた。
・・・・・
・・・
(これはマズいですわ…戦火が飛び火し、あの煙草畑が燃えてしまったとしたら……)
最悪の事態を想像したピアニスの顔から血の気が引く。
「だ、大丈夫かい……?」
「え、ええ…」
アニスに心配され、我に返るピアニス。
「現在煙草畑を運営している農家の所には急いで避難するように部隊を向わせているんだけど間に合うかどうか……」
わざとらしくため息をついたり、ちらちらとピアニスを見ながら言うアニス。
「……殿下は何をおっしゃりたいので?」
「誰か足の速い使い魔でも持っていないかな?」
そういうアニスの目は悪戯が成功した子供のようだった。