そ…そのようなことが……
「ふむふむ……最近は隣国の情勢が怪しくなってきましたわね…」
朝食を摂りおえたピアニスが新聞を読みながら煙草を吸う。ウェアウルフ達はすかさず灰皿とコーピーを用意している。
新聞によると、隣国クリーニアとベイパーの緊張が高まっているというのだ。このままでは戦争に突入することも考えられるという。
「最近まで友好を保っていたあの二国が……せめてこちらに火の粉が降りかかってこないことを願うばかりですな。」
メビウスが不安そうな顔で相槌を打つ。
「そうですわね…あら、もうこんな時間。ではいってきますわね。」
「行ってらっしゃいませ。」
メビウスと数体のウェアウルフに見送られ、ピアニスは学校へと向かった。
・・・・・
・・・
正午を知らせるベルが鳴り響く。
ピアニスはいつものようにあまり人目の付かない学園の中庭へと向かうと、そこには先客がいた。
「やあピアニス。」
セレスティン帝国皇太子アニスである。
「ごきげんよう皇太子殿下……本日はお一人で?」
いつもなら5人の騎士の息子達がアニスに付き添っているのだが、今日は珍しくアニス一人であった。
「いや、彼等には中庭の人払いをして貰っているんだ。」
「……と言うことは私以外に聞かれたくないお話が?」
「流石物わかりが良いね。まあ、座ってよ。」
「失礼いたします。」
アニスの隣に座るピアニス。そして流れるように鞄から灰皿と煙草を取り出し煙草に火を付ける。
「フゥーー……それで、お話とは?」
「ああ、君も今朝の新聞読んだだろう?隣国クリーニアとベイパーについてだ。」
「戦争に突入することも考えられるとありましたわね。ですがこの国には関係ないのではなくて?」
「もちろんその通りだ。皇帝もこの戦争に介入する気は無いらしい。でも、重要なのはここからだ。」
アニスがいつものゆるふわっとした表情から一気に真剣な顔になり、ピアニスも背筋を伸ばす。
「今回の騒動の引き金になったのはベイパーが違法薬物をクリーニアに持ち込んだからだと言われている。潔癖なクリーニア国王は大層怒り、“国民が薬物に溺れ、国が荒んだ”と、ベイパーに猛烈に抗議したらしい。でも、ベイパーの国王は“そのような物我が国では生産していない。よって責任は我が国にはない”と、突っぱねたそうだ。」
「違法薬物の流通責任が発端ですか…その違法薬物の名前さえ分かれば責任の所在ははっきりしそうな物ですけどね。違法薬物とは何なのでしょう?」
ピアニスの質問にアニスはため息をつくと、とても言いづらそうにその違法薬物の名前を言った。
「…その違法薬物の名前は煙草。ピアニス、今君が吸っている物だ。」
「……え?」
ピアニスは固まった。