こ、これが…缶ピースの威力……
イリーナとお茶会をした次の日、コマスのタバコ屋へお使いに出した2体のウェアウルフが戻ってきていた。2体はそれぞれピアニスから預かった金貨や銀貨の入った袋、そしてピアニスから万が一にと預けられていたセブンス家の家紋が彫られたペンダントをピアニスへと渡す。ピアニスはそれらに興味なさげにしていたが、ウェアウルフが目的の物を出した瞬間、目の色が変わった。
そして現在ピアニスはウェアウルフから受け取った品をまじまじと眺めている。受け取った品は木でできた4㎝ほどの細長いパイプ状のもので、片一方は平たく潰されており、まるで喫煙道具であるパイプの吸い口を切り出したかのような形状をしていた。
ウェアウルフはこの品のほかに、価格の安い羊皮紙に粗雑に書かれた手紙をピアニスに手渡した。
手紙にはこう書いてあった。
“これはシガレットホルダーという道具だ。
平たく潰された方は吸い口。もう片方は煙草をセットする穴だ。
両切りの煙草でも煙草の葉を口に含むことなく快適に喫煙できるものだ。
狼たちには予備を含め5本持たせた。“
と、かなり汚い字で書いてあった。だが煙草を前にしたピアニスにとってそんなことは些末ごとである。
(ふむ……ものは試しですわね)
ピアニスは紺色の缶から煙草を1本取り出す。ウェアウルフの方を見ると、すでに、先日イリーナからプレゼントされた灰皿をピアニスの近くにあるテーブルに用意していた。
(では……)
ピアニスはシガレットホルダーを咥え、煙草をセットすると、いつものように煙草に火を付けて喫煙を始めた。そして、煙を一吸いした瞬間、ピアニスの目は驚愕に見開かれることとなる。
「なっ……何ですのこの煙草……!」
肺にガツンとくる衝撃とバニラのような甘い香り。ピアニスはいつもタール量21mgの金ピースという煙草を愛煙しているが、この缶ピースはそれを上回るタール量28mg。それに加えてフィルターもないため煙草本来の味が、煙がピアニスの全身を駆け巡る。そして
クラリ
煙草を吸い終わったピアニスは立ちくらみを起こした。
・・・・・
・・・
~セレスティン帝国王城某所~
「それでぇ?お父様は何とぉ?」
「陛下はあの方を野放しにする気は無いようです。煙草の産地から潰していくとおっしゃっていました。」
薄暗い部屋の中、紫色の豪奢なドレスを着た妙齢の女と白いローブを着た男が、隠れるように小声で話している。
「そぉ?じゃあ早くするように言ってくれなぁい?私もうあの煙草臭い女かんべんしてほしいのよぉ。」
「早くて一か月後効果は現れるかと。では。」
そう言って白いローブを着た男はふっと、周りの風景に溶け込むように消える。
「ふふ…ふふふふ……」
そして薄暗い部屋1人残されたセレスティン帝国第三側妃であるマーラス・セレスティンは怪しげな顔で笑っていた。