言われる前に灰皿を出す方は出来る方ですわ
遅刻してすんません
「せ、1000度……」
魔物使いの男がピアニスとのレベルの差を思い知らされ愕然とする。
通常、火属性の魔法への対策として、火耐性をあげる補助魔法というものが存在する。この魔法には他の魔法と同じようにランクが存在し、今回魔物使いの男がウェアウルフ達に掛けていた火耐性の魔法は400度の炎にも耐えられる、軍隊でも使用されるレベルの高い魔法である。
だが、ウェアウルフ達は黒焦げにされている。それもそのはず、ピアニスの煙草魔法の火力は最低でも1000度。400度までしか耐えられない火耐性でなんとかなるレベルではなかった。
「さて、実力的には私が上。数は対等。いかがなさいますか?」
ピアニスが挑戦的な笑みで魔物使いの男を見る。魔物使いの男は悔しげに歯噛みすると、指笛を吹いた。次の瞬間、空から大型の鳥型の魔物“ロックバード”が飛来した。
「……この屈辱…忘れんぞ!セブンス・ピアニスっっ!!!」
魔物使いの男はロックバードに飛び乗ると、一瞬のうちに空へと消えていった。
・・・・・
・・・
「お、お嬢様…本当にお怪我などは…」
「大丈夫ですわメビウス。」
魔物使いの男の襲撃から1時間後。ピアニスは学園への帰路へと付いていた。馬車の中で買ったばかりの金ピースを吸うピアニス。
「フゥーー…やはり金ピースですわ…この肺にガツンとくる感じ…たまりませんわ……あら?」
恍惚とした表情で煙草を吸うピアニス。そして煙草の灰を落とそうとしたところで気がついた。
灰皿の用意を忘れていたのだ。このままでは灰が車内へと落ち、中々落ちない汚れになってしまう。だが、灰皿を取り出そうにも少しでも動けば灰は落ちてしまう。ジレンマに陥るピアニス。その時、馬車の窓が開かれ、木皿のような何かを持った毛むくじゃらの腕がピアニスの目の前へと伸びてきた。
「あら、気が利くのね。ありがとう。」
ピアニスは微笑むと、木皿の上で煙草をもみ消した。煙草の火が消えたところで毛むくじゃらの腕は引っ込む。
「お、お嬢様…本当によかったのでしょうか?」
「何がですの?」
「いえ…あの…本当に彼等を連れてきて…」
不安そうに後ろを振り返るメビウスの眼には、馬車の後を一糸乱れぬ動きで付いてくる、所々焦げたウェアウルフ達の姿があった。
「大丈夫ですわ。あの魔物使いの使役魔法は解けているようですし、丁度人手が欲しいと思っていたところですしね。」
なんとピアニスは魔物使いの男が見捨てたウェアウルフ達を連れてきたのだった。