煙草を知るにはまず煙草を吸うべきですわ
狼男“ウェアウルフ”とは
数多く存在する魔物の中でも統率力が高く、集団戦法を行なう魔物である。ほかにも集団戦法を行なう魔物などもいるが、それらとは桁違いに個々の能力が高く、並の魔法使いでは単騎でウェアウルフの群れを討伐することなどまず不可能である。
「アオォオオン!!!」
ウェアウルフ達が一斉にピアニスを取り囲み、四方八方から襲いかかる。
「三式“副流煙”!!」
ピアニスが有毒な副流煙を周囲一帯にばらまく。辺り一帯は煙に包まれる。だが、ウェアウルフ達は苦しむそぶりすら見せずピアニスに襲いかかる。ピアニスはかろうじて躱し、ウェアウルフ達から距離を取る。
「対策していると言っただろう!行け!ウェアウルフ!」
魔物使いはウェアウルフ達に追撃を命じる。
(私の魔法を解析していると言っておりましたし、おそらく副流煙の毒を浄化する魔法を掛けているのでしょうか?ならば……)
「二式“主流煙”!!」
その瞬間、ピアニスの周囲が先程よりも濃い煙に包まれる。視界を遮られるウェアウルフ達。だが、魔物使いの男はニヤリと笑った。
「馬鹿め!ウェアウルフに視覚なんぞあってないもの!目くらましなんぞ役にもたたんわ!!」
通常、犬や狼の眼は動体視力に特化しており、その反面近眼である。ウェアウルフもその例に漏れず、近眼である反面動体視力に特化しているため、白煙の中僅かにうごめく影を見つけ出すことなど容易である。尚且つ嗅覚にも優れているため、視覚を塞がれたところでどうと言うことは無いのだ。
嗅覚でピアニスの臭いを発見したウェアウルフ達は、その臭いの元へ一斉に攻撃を仕掛け、噛みつく
“殺った!!”
その瞬間ウェアウルフ達の思考はその一言で埋め尽くされた。自身の犬歯から伝わる布の感覚。そして嗅覚から伝わるピアニスの臭い。
……いや、何かがおかしい。
人の肉ってこんなに柔らかかったか?
ウェアウルフ達が不審に思い、ピアニスを離そうとした次の瞬間
ボンッ!!
群がっていたウェアウルフ達が突如発生した爆炎に巻き込まれ、ほとんどのウェアウルフが、戦闘不能となっている。
「なっ……!!」
驚愕する魔物使い。それと同時に一凪の風が吹き、煙が一気に晴れる。
「うふふ……お馬鹿でかわいらしいワンちゃん達ですわね。」
そこには上着を脱ぎ捨てたピアニスが五体満足で立っていた。
なんとピアニスは煙で自身を覆った瞬間、上着を脱ぎ捨て、そこに煙草を仕込んでいたのだ。視覚が失われたウェアウルフ達はそれに反応。噛みついた瞬間に煙草式魔法四式“ポイ捨て”を発動。ウェアウルフ達を全滅させたのである。
だが、魔物使いの男は腑に落ちない様子だ。
(な、なぜだ……お前の煙草魔法対策のために肺を浄化する魔法だけではなく、火属性の耐性をあげる補助魔法をウェアウルフ達に掛けていたというのに……!)
ピアニスの煙草魔法に対抗するため、主力であるウェアウルフ達には、ピアニスの煙草魔法一式と四式を警戒し火耐性を。そして三式の副流煙を警戒し、肺に浄化魔法を掛けていたのだ。
浄化魔法は機能したようだが、火耐性の方は全くと言って良いほど機能していなかった。
(なぜだ…なぜ…?)
混乱する魔物使いの男にピアニスは笑いながらこう告げる。
「知っておりました?通常の火属性の魔法で出せる火力はせいぜいが300度やそこら。私の煙草魔法は……最低でも1000度ですわ」