1日に何度もレディを襲うのは止めて欲しいですわ
「はあっ…!はあっ…!お嬢様!お待たせして申訳ございません!」
ピアニスがタバコ屋から出て、暫く近隣の店を散策しながら歩いていると、メビウスが息せき切ってこちらへと駆けてくるのが見えた。
「あらメビウス。よくここがわかりましたわね」
「ええ。表通りでとてつもない美女が文字通り煙を巻くかのように消えたという話題で持ちきりになっておりまして…その手がかりから近くにあるタバコ屋を探し、お嬢様を発見した次第です。」
「そう、ご苦労だったわね。」
ピアニスからねぎらいの言葉を受け取り、恭しく頭を下げるメビウス。そしてにこやかな顔から一転、真面目な顔となる。
「お嬢様、先程の賊の件ですが、この辺りでは有名な賊のようでして、商人達から略奪を繰り返していた狼藉者だったようです。」
「そうでしたの。捕まえることが出来てよかったですわ。」
「そしてもう一つ、妙な話が。私たちを襲う前に、賊に情報を与えた者がいるようです。」
「……どういうことですの?」
「賊共の話によると、襲撃前に白いローブを着た男が、『次に来る馬車はお忍びでコマスに行く貴族だから一攫千金が狙えるぞ』と、情報を与えたようです。」
「……」
今回、ピアニス達が乗ってきた馬車は家紋も何もついていない普通の馬車だ。一見しただけでは貴族が乗っているとは思わないだろう。その上、ピアニスもメビウスも、本日はコマスに溶け込めるように一般市民の着ているような服を着ている。
だが、盗賊達に情報を与えた白いローブを着た男は平凡な馬車に乗った平凡な服を着た人間が貴族であると言うことに気がついていた。学園から出てくるのを目撃されたのかも知れないが、学園からあの森までは距離がある上に行き先が商業都市コマスと言うことは誰にも伝えていないはずである。
「お嬢様、考えたくはありませんが何者かがお嬢様の命を狙っているのではと思われます。」
「……分かりましたわメビウス。ですがもう少しだけ早く言って欲しかったですわ」
はっとしてメビウスが辺りを見渡すと、辺りには白いローブを着た者が5…10人はくだらない。知らぬ間に囲まれていた。
「お、お嬢様……」
メビウスが知らぬ間に囲まれていたことに狼狽える。しかしピアニスは笑みを崩さない。そして煙草に火を付けた。
「“ディフェンス・フォール”暫くそこにいなさいメビウス。」
ピアニスが呪文を唱えた瞬間、メビウス周辺の地面が盛り上がり、メビウスを覆うようなドームが出来る。この魔法は土属性の防御魔法である。
「フゥーー……で、あなた方は何者ですの?」
煙草を吸いながら目の前にいる白いローブを着た男に尋ねるピアニス。それに対し白いローブの男は
「セブンス・ピアニス。此の世に不浄をもたらす者よ。貴様には世のため消えて貰う。」
そう言った瞬間、地面から無数の白蛇が飛び出し、ピアニスを絡め取った。