身体に悪いものほど美味なのは世界の常識ですわ
どうも
ニコチン中毒です
「りょ、両切りの煙草…ですって……?!」
普段から、決闘を申し込まれようが、盗賊に襲われようが、ほとんど驚くことのないピアニスだが、今回ばかりは心の底から驚いている。
なぜならば、両切りの煙草という未知なる煙草に出会ってしまったからである。
普段ピアニスが吸っている煙草には吸い口にフィルターというスポンジ状のものが付いており、煙草の有毒成分の大半をそのフィルターが吸収しているのである。
しかし、タバコ屋の店主が差し出した缶入りの煙草にはそれがない。つまりは今までフィルターに吸収されていた有毒な物質が直接肺へと入ってしまうのだ。
「だがフィルターなしの煙草であれば煙草本来の旨みが味わえる。どうだい?買わねえかい?」
「もちろん!お試しに1カートン買いますわ!」
「はい、まいど。」
店主がカウンターの下から缶入りピース(缶ピース)が1カートン入った大きな箱を取り出した。ちなみに缶ピースは一缶に50本入っており、1カートンと言うことは500本の缶ピースを買うと言うことである。
「して、お支払いはいかほどになりますの?」
「そうさなあ……嬢ちゃんこんだけ買ってくれたし、缶ピースと金ピース一つ宛サービスしよう。合計で銀貨七枚だ。」
(この世界の貨幣の日本円での価値は白金貨:100万円 金貨1枚:10万円 銀貨1枚:1万円 大銅貨一枚:5千円 小銅貨1枚:1千円 鉄貨:100円)
「わかりましたわ。では銀貨7枚。ご確認あそばせ。」
そういってピアニスは懐から銀色に輝く貨幣を7枚取り出した。店主は出された銀貨をまじまじと眺める。
「……なにか?」
不思議に思ってピアニスが店主へと声を掛ける。すると店主は
「…いやな、本物かどうか確かめていたのさ。こんなに大量に煙草を買っていくのはこの辺じゃいねえからな。」
このような場末のタバコ屋で大量買いしていく人間が珍しかったのか、銀貨が本物かどうか確かめていたらしい。
「そうでしたの。ですが安心してくださいませ。セブンス家の家名に誓ってその硬貨は本物ですわ。」
天使のほほえみで答えるピアニス。
一方タバコ屋の店主はピアニスが高名な貴族だと言うことを知っても、さほど驚きはせず、ふっと笑うと
「貴族令嬢だろうが何だろうが、俺の店ではただの客だ。贔屓にしてくれるんならサービスするぜ。またきな。」
「ええ。今後とも宜しくお願いいたしますわ」
そう言ってピアニスは大量の煙草を抱えながら意気揚々とタバコ屋から退店した。
「セブンス・ピアニス……貴様のその汚れた肺…この俺が粛正してやる。」
その様子を白いローブの男が見ているとも知らずに。