私にとって煙草専門店はエデンのようなものですわ
「へいらっしゃい!本日はなんと最近クリーニアで発明された……」
「今日は絹が大量入荷だ!持ってけ泥棒!」
「さあさあご覧あれ!これが隣国で話題の……」
商店のほかにも露店が建ち並ぶ商業都市“コマス”の活気溢れる大通りを歩くピアニス。通りを歩く人々のほとんどは、この場所に似つかわしくない程美しい容姿を持つピアニスに振り返る。
「ささ!そこの美しいお嬢さん!あなたに似合いそうなお召し物が…」
「その美しい顔をさらに美しくしてみない?今ならこのセットで……」
美しいピアニスを見かけた商魂たくましい商人達はピアニスを取り囲む。どうやらこの絶世の美女を取り込むことが出来れば広告塔となり一儲けできると踏んだのだろう。これだけの人数で取り囲めば逃げることも出来ないだろう。と、商人達は考えていたが
「ごめんあそばせ。私この先に用があるので…煙草式魔法二式“主流煙”」
煙草を咥え火を付けるピアニス。そして突如としてピアニスを中心とした半径5mが煙に包まれる。
煙草式魔法二式“主流煙”
三式である“副流煙”とは異なり、毒性がない煙を周囲にまき散らす煙草式魔法である。毒性がないため煙幕のかわりとしてピアニスはよく使用している。(主に社交界で言い寄ってくる貴族の息子から)
「「?!?!」」
突然の煙に困惑する民衆の中をピアニスは煙を巻くように裏路地へと逃げ込んだ。
・・・・・
・・・
(ふう……ここまで来れば大丈夫でしょう。)
裏路地を1人歩くピアニス。
喧噪溢れる大通りとは打って変わってコマスの裏路地は静かだ。だが、スラム街のようになっているわけではなく、整然とした閑静な通りが続いている。
暫く歩いていると、とある看板がピアニスを強烈に引きつけた。
“タバコ屋”
「!」
その看板を見つけたピアニスは電光石火の勢いで店の扉を開けた。
カランカラーン
扉を開けると軽やかなベルの音が鳴る。店の中はそこまで狭くはないのだが、所狭しと煙草に関する用品が置かれているため、視覚的にはかなり狭く見える。
(す、素晴らしいですわ…!これほどの品揃え見たことありませんわ…!)
山のようにある様々な種類の喫煙道具に心躍らせるピアニス。するとそこへ
「……らっしゃい…ゲェッホ」
カウンターの奥の方から少々無愛想な中年の男が出てきた。しわがれた声と痰が絡むような咳を頻繁にしているところから長い年月煙草を吸っているのだろうと言うことが分かる。ピアニスはツカツカと店主であろうと思われる男に近づくと
「…金ピースはございますか?」
自分がいつも愛煙している煙草の銘柄を店主へと伝える。すると店主はカウンターの下から黄色い箱に金色のオリーブを咥えた鳩のエンブレムが刻印された煙草を取り出した。
「あるようですわね。それでは10カートンお願いしますわ」
すると店主はカウンターの下から金ピースのカートン(10箱入り)を10個取り出しカウンターに乗せる。
「ありがとうございます。ではお会計を…」
「……待ちな」
にこやかに会計へと進もうとするピアニスだったがそれを店主が静止する。
首をかしげるピアニス。すると店主はカウンターの下から紺色の丸い缶を取り出した。缶には金ピースと同じくオリーブを咥えた鳩のエンブレムが刻印されている。
「…ピースが好きなお前さんにおすすめの煙草だ。」
「どうして私が吸っていると?」
「お前さんからピース独特の甘いにおいがすんだよ。でだ、この二つもピースなんだがフィルターがない両切りの煙草だ」
「ッッッ!!」