そんな風体なのならば煙草くらい吸いなさいな
馬車に揺られること小一時間。
ピアニスの煙草はすでに50本を超えており、馬車の中は濛濛とした煙で一杯になっており、中の様子は外からでは分からなくなっている。
「お嬢様、もうまもなく“コマス”に到着いたします。」
「ハァ…やはり遠いですわね。煙草がもう残り2箱しかありませんわ。」
御者を務めるメビウスがピアニスに言う。対してピアニスは出がけには4箱もっていた煙草が残り半分となってしまっているのを哀しげな目で見ている。
「お嬢様、この先森の道へと入ります。少々道が悪いので舌を噛まぬようお気を付けください。」
「ええ。」
メビウスの言うことに相槌を打ちながら煙草を咥えるピアニス。密室となっている馬車の中からは煙が漏れ出している。
(ふふふ……コマスは様々な輸入品もある都市。きっと私の知らない輸入煙草もあるはず…心躍りますわ!…あら?)
内心うきうきとしながら煙草を吸うピアニスだったが、それに待ったを掛けるかのように急に馬車が止まった。不思議に思って窓の外を見てみると、武器を持ち、汚い服装をした男達が総勢15人ほどでこの馬車を囲んでいた。
「悪いが、ここを通りたくば金貨100枚置いていけ。さもなくば……」
盗賊のお頭らしき男が御者をしているメビウスに盗賊達が持っている武器をちらつかせる。メビウスを見ると、予想だにしない事態にしどろもどろとなっている。それを見てピアニスは馬車から飛び出した。
「お、お嬢様馬車の中にお戻りに…!」
「下がっていなさいメビウス。ここは私がなんとかします。さて、あなた方は盗賊という認識でよろしいのかしら?」
馬車の中から現れた容姿端麗なピアニスに盗賊達は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに下品な笑みに表情を切り替える。どうやらピアニスに対してよからぬ事を企んでいるらしい。
「いやぁ?この森は俺らの森だ。交通量として適切な金額を示しているだけだが?」
ニヤニヤと笑う盗賊のお頭。対するピアニスは煙草を咥え火を付ける。そして
「そうですか…ではフゥーー…お断りいたしますわ!」
煙草の煙を盗賊のお頭へと吹きかけるピアニス。その行為に盗賊のお頭の堪忍袋は勢いよく切れた。
「てめぇ!!!!やっちまえ野郎共!!」
「「「「オオオオオ!!」」」」」
盗賊達が一斉にピアニス達に襲いかかる。
「女は高く売れるからなぁ!傷つけるなよ!」
下品な笑い声を上げながらピアニス達に群がる盗賊達。
だが
「あっ……ぐぁ…」
1人、そしてまた1人と、盗賊達が倒れていく。対するピアニスは煙草を咥えて立っているだけ。その光景を見て盗賊のお頭は目を剥く。
「て、てめぇ……一体何しやがった?!」
それに対しピアニスは
「あらあら、皆さんそんな風体なのに煙草を吸っていない健康的な方々なのですわね」
と、にこやかに答えた。