かぞく
彼は 家族だった
初めて出会ったのは 小学生の頃
学校から帰ってくると 見慣れない子犬がいた
他所の家で生まれた子らしく 親が貰ってきたのだという
私は昔から犬が欲しかったので 物凄く喜んだ
寝るのも一緒だったし 散歩にも毎日欠かさず行った
でも そんな日々を何年も続けていると 時折散歩にいくのが億劫になることもあった
遊び盛りの時期だったし それも仕方なかったのかもしれない
でも 今となっては もっと一緒の時間を大切にしたかったなと思う
中学生になる頃には 彼は立派なサイズに成長していた
大型犬なので 散歩のときは結構大変だった
臆病なくせにやんちゃだったので 色んな人に駆け寄ろうとするのだ
首輪が外れて 遠くへ走り出すこともあった
本当 大変だったなぁ
高校生の頃 彼の生活スペースは 玄関とそれに連なる廊下に限られていた
以前は階段も自由に上り下りしていたのだが 一度落っこちてからは怖くなったらしく 二階に上ってくることはなくなった
食事のときだけは入れてくれとクンクン鳴くので 一緒に食事をすることも多かった
弟はぼーっとしていることがあり たまに食べ物を取られていた
大学生になる頃には 彼の生活スペースはかなり広がっていた
頻繁に部屋に招き入れるようになり 家族揃って一緒に寝たりすることもあった
昔はキレイ好きだった母親も 毛や臭いを細かく気にしなくなっていた気がする
彼も高齢のためか以前より大人しく あまり粗相をしなくなったのも良かったのかもしれない
社会人になる頃 彼の生活スペースは私達と完全に一緒になっていた
暑い日には一緒になってクーラーで涼み 寒い日はストーブの前が特等席になっていた
彼は何故か 私が寝ていると股の間に入ってきて丸くなるのが好きだった
なんとなく動くのが躊躇われたので そのまま一緒に寝ることも多かったと思う
彼が血を吐くことが増えた
床が血だらけになるので たくさんシートを敷いた
病院にも行ったが 血は中々止まらず 日に日に彼は弱っていった
老いで体力もない為 歩くのもおぼつかなくなった
ついには ほとんど立てなくなってしまった
私は彼に添い寝をして 腹などを撫でてやった
すると 彼が元気を取り戻したかのように立ち上がるのだ
私は嬉しくなって 会社に行くまでの間 彼と添い寝をするようになった
次の日 仕事中に 彼が亡くなったと連絡があった
母親は泣きじゃくっていた
その日は仕事も手に付かず 定時になるとすぐに会社を出た
家に帰ると 彼が和室に寝かされていた
まだ生きていると言われても 疑わなかったと思う
でも 彼に触れると すごく冷たかった
翌日 彼の亡骸を葬儀場へ届けた
もう少し一緒にいたかったが 夏場で腐敗が進む可能性もあったので 仕方がなかった
彼は冷却処置をされ 次の日に火葬されることになった
火葬前に一度彼に対面し 体を清めた
彼の鼻からは 血が垂れていた
冷却処置をすると そういうこともあるらしい
それを見て 母親が再び泣いていた
火葬が終わり 遺骨を受け取って家に帰ってきた
彼のいない家は やはりとても寂しかった
あれから数年の月日が流れ 悲しみも大分薄らいだと思う
それでも 彼のことは時折夢で見るので きっと心には残り続けるのだろう
夢の中の彼は 元気に庭を走り回っていた
きっとあの世でも 元気に走り回ってるに違いない