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猫パンチと光る玉

 普段から一人でいることに慣れてはいるが、なれるのと寂しくないのとは別だ。

 しかし、今日は入学式だと、母方の祖父母が遊びに来ていた。



 必要以上に大きな声で「ただいま」といったせいで、リビングから祖母の珠子(たまこ)が顔を出した。



「あー、おかえりミーシャ。入学式どうだった?みんなと仲良くやれそうかい?」



「うん、いい感じの学校だったよ、クラスメイトも親切そうだった。それよりこれ見てー!」

 そう言うと、ミーシャは6キロの荷物が入った紙袋をドサッとリビングの机の上においた。



「なんだい、随分大きな荷物だねぇ?」

「でしょでしょ!6キロなんだって!なのにそれ用のカバンを用意してなくて。親切ないーんちょーが紙袋くれたの!でも6キロってやばくない?!破れちゃったから抱えて帰ってきたんだよ!」

 笑いながら、紙袋の中身を出していく。



 学校案内や、各種書類、文集的なものの他にも教科書じゃない本が数点、そして、きれいにラッピングされた四角い包が出てきた。分厚い百科事典くらいの大きさなのだが、これがとんでもなく重い。

 6キロの重量の殆どはこの重さだったのだ。



ーなぜこんなに重い?

ー鉄製の辞書とか???



「入学祝いかなー?」

 包みを解いて中身を取り出してみると、立派なカバーの付いた分厚い本がでてきた。



 背後から珠子がひょいと顔を出して言った。



「辞書かい?随分分厚いねぇ。」



 本の表紙には金ぴかの文字で、こう書かれていた。



『喜屋戸町史』



「町史…高校の入学祝いが”町史”!」

 やたらと重い喜屋戸町史を抱えたまま、どさり、とソファに沈み込む。その重みに思わず『ぐぇ』と変な声を出しながらミーシャは言った。

 

 歴史が嫌いなミーシャにとって、町史なんて全く嬉しくないプレゼントだった。



 この町史は、喜屋戸町の新高校生にもれなくプレゼントされるのだろう。



「毎年恒例…か。これじゃあイヤゲモノだよね。」



 ため息を一つつき、喜屋戸町史だけリビングに放置して、それ以外の荷物を部屋に持っていくことにした。



 リビングでは祖父の十蔵(じゅうぞう)がお気に入りの大江戸捜査網を見ていた。その足元にはテトラが座っている。



「ミーシャ、コーヒーの飲むかい?」

 珠子が台所に向かいつつ声をかけてきた。



「のむのむー!着替えたらすぐ来るね!」



 ミーシャが二階に行き、珠子は台所へ。十蔵はTVに夢中だ。

 そうやって、誰も見ていないことを確認しつつ、ぽつんと残された重たい本に、そっと近づいたモノがいた。

 


 猫のテトラだ。



 クンクンと鼻をひくつかせている。すかさず半開きになる口。フレーメン反応。ということは、何らかの「ニオイ」があるということだろうか。



 テトラは半開きの口を閉じると、左手で重たい本の表紙をぽんっと叩いた。

 離れたところから見たら、見たことない物体にテトラが警戒の猫パンチしているようにしか見えないだろう。

 しかし、その行動は、もちろん警戒の猫パンチではない。



 2度、3度とテトラの猫パンチが本に決まる。そして右手に変えての猫パンチ。



 その瞬間!頑丈な本の側面から「なにか光るもの」が、ヒュ、っと飛び出した。

 すかさずそれを口に咥えたテトラは、誰にも気づかれず、足早にリビングをあとにしたのだった。



 テトラと入れ違いにミーシャがリビングに戻ってきた。



 そして、珠子の入れてくれたコーヒーを飲もうと、邪魔な無駄に重い『喜屋戸町史』をどけようとして声を上げた。



「うわわわっ?あれ?軽くなってる??」



 びっくりしたのも無理はない。片手でもてないくらい重かった本が頑張れば片手で持てるほどには軽くなっていたからだ。



「んー??気のせいかな??」



 ミーシャは喜屋戸町史を上げ下げしてみたが、特に変わった様子はなかった。

 ミーシャの耳にかすかに遠く、チリンという鈴の音が聞こえた気がした。

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