入学式
喜屋戸町立高等学校の入学式は今どきの日本には珍しく4月1日に行われた。長くて眠い、町長他えらいさんたちのお話を聞き流し、入学式はつつがなく終了した。
入り口でもらったクラス分けプリントに従って教室へ移動すると、そこには待ちに待った高校生活があった。
多少緊張しながら、出席番号順に割り振られた自分の席につく。するとすかさず隣りに座っていたツインテールの女の子が話しかけてきた。
「ねーねー!あなた、あの突如現れた謎の洋館の子でしょ?どうやったの?魔法?あなた魔法使い一家だったりして!にゃははっ!」
喜屋戸町の人間は皆笑い声も「にゃ」がつくんだろうか?方言みたいな感じ?
とっさに返す言葉に困っていると、前の席のストレート黒髪サラサラヘアーの委員長っぽい雰囲気の女子が助け舟を出してくれた。
「ちょっと、初対面でそんな失礼なことを言うなんて!いくら古くてお化け屋敷っぽいってうわさ…あ。」
あらま。ウチはお化け屋敷ですか。
今までも散々言われてきただけに特にびっくりもしない。
ミーシャの家は築80年くらいではないかと言われている。とても古く更に洋館なので目立つのだ。
「いーんちょーのほうが失礼じゃーん!にゃはははっ!」
委員長っぽいと思ったらニックネームもそのままのようだ。
「まだ始まってもいないでしょ!委員長なんてやらないわよ!」
えーっと、ここは名乗るべき?自己紹介してお友達になってもらうチャンス??だって、この町に一つしかない高校で、多分、生徒のほとんどは地元の中学校から持ち上がってきてるみたいな高校だから、今このチャンスを逃すと私はボッチ確定しちゃうわけで。
いやいや、何も入学式だけがチャンスってわけじゃないか。ここで上手に自己アピールできなくてもまだまだ挽回のチャンスはあるはずだから、余計なことを言わずに適当にニャハハって笑っておいたほうが無難かな?
そんなことをミーシャが脳内で高速思考していると教室の外からツインテールのにゃははさんを呼ぶ声が聞こえた。
にゃははさんは人気者であるらしい。
「はいはーい、今行く!じゃ、またね魔女子さん!今度お家に招待してねっ!魔法も教えて!あっ恋占とかできる?占ってよ!…ってあっ!ともちゃんまって!ごめんまたねー!にゃははっ!」
こちらの返事を挟む余裕もなく、ミーシャは魔女を否定することもできず、にゃははさんは廊下の向こうに消えていった。
残ったのはいーんちょーだが…どうしよう、気まずい。話しかけるきっかけがない!ミーシャは内心ドキマギしていた。
「はー、うるさい子よねー。びっくりしたでしょ?えーっと何さん?」
さすがいーんちょー!しっかり自己紹介の場所を用意してくれてありがとう!
「白井です、白井美沙。ミーシャってよんでね!ニャハハ!」
ミーシャは早速にゃははさんのマネしてみた。
「にゃはは、はやめたほうがいいよ、似合ってない。」
しかし、渾身の真似っ子は、いーんちょーに真顔で断罪され、ミーシャ少しへこむ事になった。
「・・・ミーシャ、、、自分でニックネーム申告する人はじめてみたよ。ま、よろしくね!私は酒田麻巳子!そうね、委員長以外の呼び名なら何でもいいわよ!」
いーんちょー呼びを呼ぶ前に禁止されてしまった。いーんちょーて言いやすいしイメージぴったりなのに。
そうこうしているうちに、担任が現れ、クラスタイムが始まった。
新入生に向けての諸注意、配布物、始業式の確認など、簡単な説明があってあっさり解散になったのだった。
そして、ミーシャの目の前の机には、どっさりと配布物が置かれていた。
「これ、今日持って帰るの?」
ぼそり、とつぶやくといーんちょーがくるりと振り向いて教えてくれた。
「喜谷戸高校恒例、最初の試練・6キロプレゼントよ。みんな知ってるから、カートやらおっきい鞄やら持ってきてるんだけど…白井さ…ミーシャは引っ越してきたばかりよね。カバン、持ってきてない?」
恒例なのか。見回せば、カートに積み込んでいる子や、スーツケース持参の子もいた。大きなリュックに詰め込む男子の姿もあった。
「…持ってきてない…。」
愕然としている私を見て、いーんちょーはさっとどこかに行ってしまった。
あきれられたのかもしれない。
私は目の前に積みあがった物の山を見ながら、途方に暮れていた。
いろいろな文集的なものやパンフレットらしきもの。そして、学校案内に資料等々。
その中に、きれいにラッピングされている四角いものがあった。これは教科書ではない。教科書は入学前に家に送られてきていた。本来は新入生説明会で持ち帰るのだが、私は転入扱いなので、家に送られてきたのだ。
ラッピングされているものの正体は、町史であるようだ。配布物一覧に「喜谷戸町史」と書かれている。
それにしても、やたらと分厚い。
試しに持ってみようとしたが片手では無理な重さだった。
「おっも!」
なんだこれ?本の重さじゃないぞ?試しに持って見たミーシャはあまりの重さに思わす声を上げていた。
と、目の前にいーんちょーが立っていた。手に2枚の紙袋を持っている。
「はいこれ!使って。」
「え?紙袋?」
「ないよりはまし、程度だけど、これ抱えて帰るのは無理でしょ?2枚重ねにすれば少しは強度が増すと思うよ。」
いーんちょーはそういうと、さっと紙袋を2重にしミーシャに手渡すと、自分の荷物を片付け始めた。
「ありがとう。いーんちょー!」
「ちょ、まだ委員長じゃないからっ!」
ふふっと顔を見合わせて笑うと、ミーシャははありがたく2重にした紙袋に6キロの荷物を入れた。
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