引越し
翌日からミーシャは怒涛の忙しさに目が回っていた。
取材と言いつつどっかに行ってしまって帰ってこないアヤさんと、引き継ぎがぁとかなんとかいう同じく帰ってこない父さんに変わって、喜屋戸町立高校への転入手続きをこなしたり、引っ越しに伴うめんどくさい手続きのすべてを一つ一つ潰していった。
そして引っ越し1週間前に引越し業者がやってきて、家の中身をすべて持ち出してしまったため、白井一家は母方の実家へ飼い猫3匹を連れて避難した。
ちなみに白井家に飼われている猫はこんな感じだ。
・ルナ(12歳メス・黒猫・短毛)
・ソル(11歳オス・茶トラ・短毛)
・テトラ3歳オス・白黒ハチワレ・短毛)
ミーシャの母方の実家、つまり文子の実家には、猫が4匹いる。そこに、ルナ、ソル、テトラも加わり、7匹の猫が狭い家で大運動会を開いていた。普段はおとなしい3匹が野生に目覚めたかのように全力で遊んでいる姿に驚き思わず動画を撮影してしまった。
猫の性格は、一緒に暮らす猫に左右されるのかもしれない。暴れ狂う我が家の猫を始めて見た。
そしてあっという間に、引越し当日。白井一家は、喜屋戸町の元猫空き地に鎮座する、自分達の家に、引っ越しした。
猫は家につくと言う。引っ越しをすると、家が変わることでそのまま具合を悪くする猫もいるんだとか。 でも、ルナ、ソル、テトラは大丈夫だ!だって、住み慣れた家だもんね!景色は違うけど・・・。
***
アヤさんが猫空き地で猫を追いかけ回してたのが2週間前。
その猫空き地だった場所に、古びてはいるがいい感じの洋館がでんと鎮座している。
引っ越しの荷物はすでに運び込まれており、予め決められていた配置に収まっているらしい。
今までと同じように。
・・・っっっっってーーーー!!!
特に聞かなかった私も私だけど(忙しかったし!)誰も新しい家に対して話題を出さなかったけれど(忙しかったし!!)
確かにアヤさんは、
「大丈夫よ、そんなに環境変わらないわよ、任せて!」
って自信満々だったから、まぁそんなものかと思ってたけど!
ミーシャは元猫空き地にでーん、と鎮座した、明らかにその地域では異質な洋館の前で唖然としながら聞いた。
「どうやって、家、持ってきたの?」
この家はもともとは父方の爺さんの持ち物で小洒落た洋館だ。地元民には「お化け屋敷」と呼ばれていたが、とても味のある洋館なのだ。何でも名のある建築家の作だとかなんとか。
父はこの洋館がとても気に入っていて、勤務先がめちゃめちゃ遠いのに引っ越さないで住み続けていた。
家を出るくらいなら仕事を辞める、と。そのくらい執着していた。
しかし、今回は、父さんが望んだ転勤だった。流石に洋館を売ったりはしないとは思ったけど、まさか持ってくるとは・・・。しかしどうやって?ミーシャは考え込んだ。考えてもわからないので素直にアヤさんに聞いてみた。
「どうやって、ってー。トラックで!」
アヤさんがさも当たり前のことのように言う。
引越し業者のトラックで!って感じて軽い返事だけど、そんなわけないよね?トラックって、おかしいでしょ??ミーシャは心の中で盛大に突っ込みを入れていた。それが聞こえていたかのように父・文珠はぼそりと言った。
「まぁ、餅は餅屋だ。」
父さんは無口でまじめに見えるけど、あれで実は破天荒だったりする。アヤさんだけでこんなことはできないから、たぶん実行犯は父さんだ。
確か、爺さんも「どっかから持ってきた」とか言ってた気がする。1回出来たんならまた動かすことだってできるんだろう。
そういえば以前、アメリカのバラエティー番組「お家の引っ越し!」って家をトラックで運んで家ごと引っ越す番組見たことある。なんか方法があるんだろう。日本の狭い道路をどうやって動かすのかは疑問だけど。
大体そんな大プロジェクト的なことやって許可とかご近所さんの迷惑とかそういうのは大丈夫なの?!
「・・・餅は餅屋だ。」
なぜか心の疑問に小さい声でぼそりと答えると、父さんは家に入ってしまった。
「同じ家だから、楽でしょ♪勝手知ったるなんとやら!」
アヤさんは何も考えていない。絶対に。
楽っていうか、同じです。同じ家です。
「あーもう!いいや!これ以上考えても仕方ない!」
あきらめるようにつぶやく私にテトラが答えてくれた。
「にゃーん?」
玄関で出迎えてくれたテトラは、まるで「何してるの、早く入りなよ」とでも言っているかのようだった。
こんな風に、喜屋戸町での新しい生活は、スタートした。
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