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深窓の令嬢ますみさん

町の猫たちの出番がやっと来ました。


※12/10 ますみさんのネームプレートの表記を修正しました。

 今日は土曜日だ。

 普通なら、高校は授業がある。しかし今日は創立記念日という名のテスト前休みだ。

 

 そんな日に、勉強もせず部活動に勤しむ、生徒会長。それが金子航だ。


 白井家への来訪は10時の予定のはずなのに、現在時刻は9時30分。

 

 白井家の庭を覗き込む薄茶色の頭がぴょいぴょいと生け垣の隙間から見えている。


 時々、『おおっ、じょーくんが入っていったぞ。』とか『えっ、ボスはいまどこから来たのだ?』などど、金子の声が白井家の庭に響く。


 当の白井家の人間はというと、そんな茶色いせわしなく動いてしかもうるさいお客さんを、テラスで朝食を取りながら横目で見ていたりする。

 

「まだ、約束の時間には早いもんね。」

 食後のコーヒーをすすりながら、ミーシャは向かいに座って紅茶を飲むいーんちょーに向かって言った。

「これでも、大分引き止めたんだけどねー…。ごめんね早くから来ちゃって。」


 いーんちょーの家に金子が迎えに来たのが、朝の6時30分。早すぎるにも程がある!と、いーんちょーの家で無理やり朝ごはんを食べさせたり、テスト勉強見てもらったりしてなんとか時間まで引き留めようとしたもののソワソワして全くじっとしていられない金子がとうとういーんちょーの家を飛び出してしまったのが8時30分なのだが、これでも早い!


 いーんちょーの家から白井家まではゆっくり歩いても20分かからないくらいの距離だ。その距離を近道も使いながら全力疾走、もちろんいーんちょーを置いてけぼり、ときには民家の庭を横切る、そんな非常識にも関わらず、ピンポンするのには早すぎるから、と道路から白井家を覗き見しつつ今に至る。


 ちなみにものすごく騒ぐせいで到着から3分で文殊に見つかるも『約束の時間までにはまだありますので、私は外から見学させていただきます!』とかなんとかよくわからないことを叫びながら大興奮で庭を覗いている。そんな金子は放っておき、いーんちょーの方はミーシャが朝のお茶に誘ったのだった。


 10時。


 ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴る。珍しくアヤが出迎える。


「金子クンね、いらっしゃ~い!ささっどうぞ~!」

「本日は、ご招待いただきありがとうございます。白井博士にもお目にかかれるとのこと!大変光栄に存じております!」


 招待した覚えはないんだけど。まぁいいや。すると、金子のサイドをするりと入ってくる灰色の影があった。

「えっ?ますみさん?!」

 

 驚く金子のサイドからするりと現れたのは、グレーで長毛のいかにも気位の高そうなお猫様!キラリと光る首輪のチャームには『Masumi』と筆記体で書かれているのが見える。


 ますみさんは、すっ、と金子の前にでて、きちんと手を揃えて座ると優雅にひと鳴きした。

「にゃあー。」


 そうして、目をパチクリする皆を横目に、ますみさんはさっさと図書室へ向かっていった。見事なキャットウォークで。

「あっ、あっ、うん、金子クンもはいって!さきにますみさん行っちゃったね。」

 アヤさんは、金子を図書室へと促すと、文殊を呼びにテラスへ行った。


「先輩、いらっしゃい。図書室はこっちだよ。」

 ミーシャはいーんちょーと並んで図書室へ向かう。

「まみっこ、なんで先に家の中にいるんだい?」

「てか先輩が勝手に外で喚いてただけでしょ。私声かけたよ!」


 図書室の手前に来ると、文殊が待っていた。

「いらっしゃい金子くん、酒井くん。今日は貴重な日に立ち会えて嬉しいよ。」

「こっ!こちらこそっ!白井博士にお会いできるなんてっ!光栄です!!今日はよろしくおねがいっしまっ!」

 金子生徒会長といえば、クールでイケメン、秀才の、スポーツマン、であるらしいんだけど。おかしいなぁ。ここにいるのは不詳の弟とかそういうやつかな?


 まぁでもちょっと好感持てるなぁ、とか考えながら隣を見れば、顔を真っ赤にしてアワアワと身悶えるいーんちょーが居た。見てはいけないものを見てしまった気がしたミーシャはそっと視線を外す。すると、その外した視線の先にテトラがいた。


「あっ、テトラ、どこに行ってたの?」

「なっ。」

 テトラは短く鳴くと、リビングを走り抜け、庭の方へ出ていってしまった。図書室を調べた後から、今朝になっても姿の見えなかったテトラが急に目の前に現れたことにミーシャはびっくりしていた。

 

「家中探しても居なかったのに、テトラはどこにいたの?」

 場所的に、図書室から出てきたとしか考えられないのだけれど、ますみさんと鉢合わせしたのかな?テトラはますみさん苦手そうだもんね!などと勝手に猫仲を想像しながら金子、いーんちょー、ミーシャの三人は図書室に入ったのだった。


「ふぉぉぉ!これがニャンズゲートですな!どうやって起動する?どこかにスイッチが??」

 図書室にはいるやいなや作り付けの古い本棚に突進し、あちこちベタベタと触りだす金子に文殊もミーシャも声を失っていた。


「金子くんは、かなり研究しているようだね。」

 そんな金子をじっと観察しながら、文殊はミーシャの見たことのない、研究者の顔で金子に話しかけた。

「はいっ!白井博士のレポートもっ全部読まさせていただきました!なので、これがその本棚か、と!感激です。」

 父さんってもしかしてすごい人なの?という疑問が一瞬よぎったミーシャだが、直後冷ややかな声で答える文殊にピリリとしたものを感じ固まってしまった。


「ほう?私のレポートとね?さぁ、どれのことだろうか?」

「あっ…!!」

 今の今まで超ハイテンションで本棚を探っていた金子が一瞬にして氷点下まで冷え切った青い顔になる。


「金子クン、どのレポートかなぁ?」

「はいぃぃ!」

 金子は文殊の前で気をつけの姿勢で固まっていた。


 ますみさんは、お嬢様です。こっちでもあっちでも。

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